掲載日 2020年09月23日
株式会社ウフル

株式会社ウフル

【提供目的】
  • 収集情報を活用した付加顧客サービス提供
  • 顧客へのサービス対応・サービス品質向上
  • 故障や異常の予兆の検知、予防
  • その他(コロナ禍における安全性の確保)

【活用対象】

  • 自社で活用
  • 企業顧客

IoT導入のきっかけ、背景

 

 当社は2006年に設立されたベンチャー企業で、「テクノロジーと自由な発想で、持続可能な社会を創る」ことを経営理念とし、IoT関連事業を数多く展開している。

 新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大によって発令された緊急事態宣言の解除後、観光・宿泊・飲食・運輸業ではウイルス感染を防止するために3密(密閉、密接、密集)の回避を行いながら事業を再開しているが、依然として大きな影響を受け続けている。これらの業種では特定の場所に不特定多数の人が集まることが多く、施設を訪問することで遭遇しうる3密への不安がその要因の一つと考えられる。

 そのため、ソーシャルディスタンスの確保による3密の回避やマスク・手洗いの確認徹底などからなる「感染拡大防止ガイドライン」が策定され、ガイドラインを守っている事業者にステッカーを発行することによって安全性を可視化する活動が行われている。一方で、ガイドライン遵守状況の確認には人の判断に依存する部分があり、客観的な対策状況を示せないことが多い。

 緊急事態宣言発令直後の4月に、当社の中ではこの事態にどのように取り組むべきかの議論が起きていた。その際、IoTソリューションを手がけるエンジニアが、3密を定量的に可視化することによって、来場者の安全・安心の確保ができるのではないかと考えた。そこで、すぐに入手できる環境センサーと当社のIoTオーケストレーションサービスenebular(エネブラー)を用いたプロトタイプを1日程度で作り経営層にデモを行ったところ、ソリューション化が即断され開発がスタートした。

 商用システムも短期間で開発と検証を終え、5月26日に「3密可視化システム」としてリリースし、和歌山県南紀白浜空港様に導入いただいて試験運用を行なっている。当社の価値基準の一つである「ベンチャー企業ならではスピード感を持ってすぐに動く」ことを実践して開発した本システムによって、コロナ禍の課題解決に貢献していきたい。

 

IoT事例の概要

サービス名等、関連URL、主な導入企業名

名称:3密可視化システム

URL:https://uhuru.co.jp/solutions/3cs/

 

サービスやビジネスモデルの概要

 本サービス(図-1を参照)では、環境センサーと人感センサーを使用して空間の密閉・密接度を測定し、当社のIoTオーケストレーションサービス「enebular(エネブラー)」を用いてクラウド上のダッシュボードに可視化する。加えて、測定値が一定レベルを超えるとアラートを出すことができる。

 これによって、測定データに応じて、室内換気の実施や大きな声での会話を控える注意喚起を行うなどの対策が可能となる。また、店頭のサイネージやSNSに施設の状況をリアルタイムに配信することができる。このように、人の主観ではなく客観的なデータを用いることによって、来場者は施設の状況を確認した上で安心して訪れることが可能となる。
 

図-1 3密可視化システムの構成

(出所:ウフル提供資料)

 本サービスの利用料金は初期費用と月額費用から構成され、市販の比較的安価なセンサーを組み合わせることによって初期費用を低く抑えている(費用の詳細はリンクの利用料金を参照)。

 

内容詳細

(1)  3密の測定と可視化

 本システムでは3密状態を以下のセンサーで測定している。

  • 密閉:二酸化炭素濃度の相当値を測定するVOC(*1)センサー
  • 密接:騒音センサー
  • 密集:赤外線人感センサー

 屋内空間の密閉度や換気の悪さと二酸化炭素の濃度には相関性がある。そのため、室内の二酸化炭素濃度を測定することによって空間の密閉度を判断することができる。本システムでは、比較的安価で入手しやすいVOC濃度から二酸化炭素濃度の相当値を測定する環境センサーを使用している。

 本システムで使用している環境センサーには、VOCの測定に加えて、温湿度や騒音の測定機能がある。騒音データは、会話などによって生じる密接場面のモニタリングに使用する。

 人感センサーを用いて室内の人数を計測し、部屋の面積を人数で割ることによって、密集度をモニタリングする。本システムでは人体検出機能を持つ赤外線アレイ方式の人感センサーを用いて、推定人数を測定している。

 上記のセンサーデータを分析し、閾値を超えた際に密閉や密集の発生としてアラートを出す。本システムでは、市販の比較的安価はセンサーを組み合わせることによって、上記の3密の判定に必要な測定精度を実現している。測定データは、見やすい形にグラフ化して施設管理者向けのダッシュボードや来場者向けのサイネージに表示することができる。

(*1):VOC(Volatile Organic Compounds:揮発性有機化合物)は室内空気中にガスとして存在する揮発性有機化合物の総称である。このVOCの濃度から二酸化炭素濃度の相当値を求めることができる。

 

(2)  IoTオーケストレーションサービスenebularを使用したシステムの開発

 図-1のシステム構成では、センサーで収集したデータをゲートウェイ(図の中央にenebularと表記)を介してクラウドに送る一般的なIoTシステムの構成をとっている。その際、従来のIoTシステムの開発では、デバイス、ゲートウェイとクラウドで異なる開発環境を用いてプログラムの開発やテストを行う必要があり開発工程が複雑であった。

 本システムの開発に用いた当社のenebular(図-2)では、デバイス、ゲートウェイとクラウド双方で共通のビジュアルプログラミング環境を用いて最小限のコード記述(もしくはノーコード)でIoTサービスの開発ができる。さらに、開発したサービスのデバイス、ゲートウェイ、クラウドへのデプロイ(展開)を一貫して行うことができる。これらの機能によって、サービスの開発やデプロイを大幅に効率化することができた。

uhuru02.png

図-2 enebularの構成
(出所:ウフルホームページより転載)

 

(3)  3密可視化ノウハウの無料公開

 当社ではenebularを使用した3密可視化のチュートリアルをブログにて公開している。使用している環境センサーやゲートウェイは、本記事で紹介した3密可視化システムと同じものである。IoT開発の経験がなくとも、システム開発の知識をお持ちの方なら誰でもトライすることが可能で、IoTシステム開発の敷居は決して高くないことを実感していただけると考えている。

 

導入事例

 和歌山県南紀白浜空港様にPoC(Proof of Concept)を経て本システムを商用導入していただいている。南紀白浜空港様では、写真-1に示す通り、環境センサー(手摺部分に設置)と人感センサー(掲示板の右上に設置)を用いて、出発ロビー搭乗待合室の二酸化炭素濃度や混雑状況の推移をモニタリングしている。

 

写真-1 南紀白浜空港の導入事例
(出所:ウフル提供資料)
 

取り扱うデータの概要とその活用法

 3密可視化システムが取り扱うデータは以下の通りである。

  • 二酸化炭素濃度の相当値
  • 騒音
  • 人感センサーが検出した人数の推定値

 

事業化への道のり

苦労した点、解決したハードル、導入にかかった期間

 プライバシーへの配慮と最適なセンサーの選定に苦労した。3密の測定にはカメラを用いた方法が考えられるが、プライバシー面で社会的なコンセンサスがまだ得られていないと考えた。そこで、仕組みが簡単で収集データから人物を特定することがないセンサーの組み合わせで実現する方法を検討した。

 

技術開発を必要とした事項または利活用・参考としたもの

 開発プラットフォームとしてenebularを活用したことが開発の加速に貢献しており、最初の企画からリリースまでを1か月程度で実現した。

 本システムを実現するために新規開発は行っていない。むしろ、このような緊急事態に迅速に対応するために、既存の技術を活用して短期間で実現することを重視した。

 

今後の展開

現在抱えている課題、将来的に想定する課題

 PoCなどのビジネス展開を行う中で、IoTに関するお客様の要望や課題は多岐に渡り、これらをいち早く取り込むことの重要性を改めて認識した。例えば、南紀白浜空港様からは、ロビーが混雑する飛行機の出発前は、精度を高めるためセンシングの間隔を通常より短くする要望をいただいた。

 こうしたお客様からのフィードバックには迅速に対応しているが、よりカスタマイズ性が高い柔軟なシステムにしていきたいと考えている。

 

強化していきたいポイント、将来に向けて考えられる行動

  • ダッシュボードなどのUI/UX(ユーザインタフェース/ユーザ体験)を強化したい。
  • 二酸化炭素濃度の測定を使用した密閉度の判定という手法がまだ浸透していないため、温湿度測定による快適度の判定のように、もっと身近で一般的な手法に育てていきたい。

 

将来的に展開を検討したい分野、業種

  • センサーメーカーとの協業を広げたい。
  • 今回使用したセンサーは社内で調査して選定したが、今回の目的に適したセンサーの数は多くなかった。そのため、より多くの要望に応えるために、使えるセンサーのバリエーションを増やしていきたい。

 

本記事へのお問い合わせ先

株式会社ウフル 広報担当

e-mail : contact@uhuru.jp

TEL :   03-6895-1520