IoT導入のきっかけ、背景
国土交通省の「運輸安全マネジメント制度」導入から10年が経過し、自動車事故件数や死者数は着実に減少している。しかし、運転手の体調異変による事故件数は増加傾向にある。また、あおり運転や主に高齢者による高速道路の逆走など大きな事故につながる行動も撲滅に至っておらず、今もなお社会的影響の大きな事故が発生している。
当社では元々お客様の声、現場の声に基づく改善活動に力を入れており、その中でお客様からドライブレコーダーのデータを保険会社に見て欲しいとの要望が増えており、また、その活用が事故処理の円滑化に役立つことから、その価値に気付いた。
しかしながら、お客様のデータを勝手に会社の価値創出に使うことはできない。そこで、ドライブレコーダーのデータを組織的に収集し、安心・安全運転を支援するプラットフォームを構築するため、社内プロジェクトを組織し検討を進めた。その結果、ドライブレコーダーのデータと運転手の生体情報を組み合わせてアップロードし、AIを活用したデータ分析により事故発生リスク等を評価する統合情報プラットフォームの構築を目指すこととした。
当社だけではこれを実施できないので、この案件に積極的なパートナーと共同研究することとした。パートナー探しの結果、システム構築およびデータ提供については、それぞれアクセンチュア株式会社、第一交通産業株式会社と協力し、2017年3月~10月にかけて実証実験を行った。今後第二弾の実証実験を計画中である。
IoT事例の概要
サービス名等、関連URL、主な導入企業名
先進的な自動車運行管理支援による自動車事故防止のための共同研究
サービスやビジネスモデルの概要
2017年3月から実施した第1弾の実証実験では、タクシー100台とタクシー運転手100名から取得したデータにより、乗務中の心拍変動やしぐさから、眠気などのヒヤリハットに関係する兆候を識別することに成功。運転手の健康管理、事故を未然に防ぐ施策提案、運転傾向把握、個人の特性に合わせた交通安全運転指導に活用することが可能となる。
内容詳細
ドライブレコーダーの映像情報、運転手の挙動情報、時計型ウェアラブル端末からの生体情報等のデータ分析を行い、ディープラーニング等の高度なデータ解析手法を用いて、事故発生等のリスクを評価する。
概要図
使用するデバイスは日常的に装着しやすく業務や運転手の負荷を最低限にする(理想は通常と変わらない)ものであることが重要であり、時計型ウェアラブル端末を選択。そこから取得するデータとドライブレコーダーからの運行データを組み合わせ、独自のデータ分析技術を活用することにより眠気や注意力低下などヒヤリハットにつながる兆候の識別精度を高めている。
取り扱うデータの概要とその活用法
- ドライブレコーダー:映像情報(道路側、運転手側)、車両運行情報
- ウェアラブル端末:生体情報(心拍数)
事業化への道のり
苦労した点、解決したハードル、導入にかかった期間
- プライバシー保護の観点から後部座席のお客様の映像を除去するため、データ収集デートウェイでこれをカットする処理を行いクラウドストレージにアップロードしている。
- ウェアラブルデバイスは、運転手に違和感なく装着してもらい、かつ、業務や運転手の妨げにならないことが必要。本実証実験では時計型ウェアラブル端末を採用。
- 苦労したのは、教師データの作成。映像を人が見ながらヒヤリハットの場面を抽出し、これを教師データとした。
技術開発を必要とした事項または利活用・参考としたもの
- サーバー、データ収集ゲートウェイ、エッジ・コンピューティング画像処理技術などを含むIoTプラットフォームアーキテクチャーはインテル社(アクセンチュアと協業関係)の技術を活用。
今後の展開
現在抱えている課題、将来的に想定する課題
眠気の検知、注意力低下の把握に関しては、ほぼ期待通りの成果を得ることができた。しかし、これを予知するには、レベルが違うデータが必要なことも判明した。今後は、予知に関する精度の向上を目指し、収集するデータの高度化や予知のための評価尺度の実証を検討する予定。
強化していきたいポイント、将来に向けて考えられる行動
収集するデータ種別の増加、デバイスの精度向上などにより、データ分析精度を向上させる。実証実験第二弾を企画検討中。当社は協力のネットワークは拡がった方が良いものができると考えており、産業をまたがった企業間の協力を実施していきたい。
将来的に展開を検討したい分野、業種
- タクシー以外の車両、例えばトラック等への展開。また、タクシー車両での成果の自家用車への展開
- 将来的にはデータ分析手法、ノウハウをヘルスケア分野へ応用することも検討中