IoT導入のきっかけ、背景
日本酒造りの中で特に重要な要素は、麹・酒母・もろみの三大工程である。日本酒の味わいは、これらの工程における杜氏の熟練の技と、発酵状況の把握や制御をおこなうための品温管理によって決まるといっても過言ではない。
しかしながら、品温を24時間監視することは容易ではない。また近年、日本酒造りにもIoTを取り入れ、杜氏制度から社員による日本酒造りへの移行を検討している酒蔵メーカーも増えつつある。酒造品温モニタリングシステム「もろみ日誌」は、日本酒造りとIoTソリューションの融合によりこれらの課題を解決、伝統工芸の発展に貢献することを目指している。
IoT事例の概要
サービス名等、関連URL、主な導入企業名
酒造品温モニタリングシステム「もろみ日誌」
http://www.ratocsystems.com/solution/sake/index.html
「もろみ日誌」は、品温を計測するセンサーとWindows PCに取り付けるアダプター、アプリケーション、AWSクラウド、スマホアプリで構成され、以下の機能を有する:
- 特定小電力無線(Sub-GHz)通信を使い、一定時間ごとにセンサーから送信される品温を自動計測しグラフ化
- 品温が警報設定範囲を超えたときに登録されたスマートフォンへアラーム通知
- スマホで撮影した状ぼう(もろみの泡の状態)写真をクラウド経由でWindows PCにアップロード
また、日々分析をおこなったボーメ度(*1)・アルコール度も手動入力でき、BMD曲線・A-B直線(*2)の解析により日本酒造りのデータを見える化し、熟練の技を次の世代へ継承するための手助けを行う。
サービスやビジネスモデルの概要
本システムは、IoT製品開発実績のあるラトックシステムが開発し、酒造業界に多くのシステム納入とサポート実績があるハートコンピューターが販売している。タンク1台分の品温センサーを含む基本構成に加えて、タンク台数分の品温センサーを追加し構築するもので、小規模でも手頃な予算で導入が可能。ハードウェア料金は、品温センサー10本導入の場合で、約50万円となっている(別途設置費用が必要)。アプリケーションのご使用には、月額7,000円(または年額60,000円)のライセンス料が必要である。(以上、表記金額はすべて税別)
参考URL:http://www.ratocsystems.com/products/subpage/smamoni/moromi1_kousei.html
内容詳細
【酒造品温モニタリングシステムの価値】
- 昼夜問わず、1時間ごとに品温モニタリング
指定した期間、1時間ごとに品温と室温を自動計測。特定小電力無線で別室のパソコンへデータを送ってグラフに表示することによって、状況確認のため蔵に足を運ぶ頻度を軽減した。また、品温センサーには±0.3℃の高精度計測が可能なPtセンサーを採用し、より正確できめの細かい品温管理を実現した。 - 自動計測とデータ記録で日常業務の負担軽減
自動的に品温と室温の計測と保存がされるため、決まった時刻にタンクを回って記録する手間が省ける。さらに、指定した品温の範囲を超えるとスマホに通知する機能により、不在時ももろみの変化に気づくことが可能。責任者はスマホで品温の変化を確認し、宿直者へ指示するなど迅速な対応が可能。出勤前に、品温でもろみの状態を把握してから作業にとりかかれるため、効率的に作業が進められる。 - 酒質の安定化と向上、生産量の向上
日本酒度、アルコール、酸度など、もろみ管理に必要なデータも本システムで管理。品温とあわせて入力データから算出したBMD曲線やA-B直線を表示するので、総合的な分析をおこないながら、温度制御や追い水のタイミングを判断できる。 - 実績データの蓄積による継承
異なるシーズン・タンクの仕込みデータを保管し、データベースで一元管理。計測データに加えてもろみの泡の経過を写真で記録し、経験で覚えてきた部分もあわせてデータとして残すことで、技術の継承を進める。
概要図
取り扱うデータの概要とその活用法
- 記録データ
Windows PCにデータベースとして記録。CSV形式での書き出しも可能。
外付けHDDやクラウドへの自動バックアップ機能あり。 - データ項目と入力方法
【品温・室温】指定した時刻に自動で入力(1日2回)※グラフは1時間毎にプロット
【櫂入温度】品温センサーのボタンを押して入力
【その他の項目】(日本酒度、酸度、グルコース、アルコール、アミノ酸度)計測値を手入力
【BMD】入力データから自動で計算
【状ぼう写真】もろみ日誌アプリで撮影して送信
事業化への道のり
苦労した点、解決したハードル、導入にかかった期間
- 計測データを取り込むだけでなく、仕込みの細かなプロセスを理解して設計しなければならなかった
- 電池駆動の品温センサーにおいて、数日で切れる電池の寿命を無線通信を工夫し3ヶ月まで延ばした
全体の開発期間:8ヶ月くらい
技術開発を必要とした事項または利活用・参考としたもの
IoTシステム部分は外出先から家電を制御する「スマート家電コントローラ」の開発で培った開発技術を活用、特定小電力無線通信技術はローム株式会社に協力いただいた。
今後の展開
現在抱えている課題、将来的に想定する課題
ハードウェア面では、現状より離れた距離でも設置できるよう無線中継機の開発を予定している。麹の工程でも品温の管理がおこなえるよう、湿度対策に取り組んでいる。納品後も酒造現場からの要望などをもとに、システム改善を行っている。
強化していきたいポイント、将来に向けて考えられる行動
一連のプロセスデータからディープラーニングを応用したAI技術を使って、上槽(搾り)時期やアルコール出来高の予測等への取り組みを検討している。
将来的に展開を検討したい分野、業種
高精度な品温を取得して記録・監視する需要が見込める、食品管理や養殖などの分野への展開を図っている。
本記事へのお問い合わせ先
ラトックシステム株式会社 東京支店 コーポレート・ソリューショングループ