掲載日 2019年02月13日

中村留精密工業株式会社

【提供目的】
  • 事業・業務の見える化
  • コスト削減
  • 事業・業務プロセスの改善

【活用対象】

  • 自社の部門内で活用
  • 自社の複数部門あるいは全体で活用

IoT導入のきっかけ、背景

 当社は、石川県を拠点とする中堅工作機械メーカーである。NC旋盤が持つ旋削機能と、マシニングセンターが持つ切削加工の両方を併せ持った複合加工機のトップランナーとして、世界30か国に販売・サービス網を展開し、高い技術力に加え、顧客要求に応じた柔軟なカスタマイズを製品に施すことによって大手メーカーとの差別化を行っている。

 当社の強みは国内生産中心の高付加価値製品の提供であるがその反面、為替変動リスク及び、現地生産企業との価格競争に晒されている。経営層はこの経営課題への対応策として大幅なコストダウンが必要と判断し、社長から30%以上の生産性改善という高い目標が示された。一方で、当社の多くの製品は部品点数が1万を超えること、多品種少量生産に加えて受注毎にカスタマイズを行う場合が多いことから、生産工程が非常に複雑である。社長から示された目標を達成するためには、従来の枠を超えて、会社全体の効率を改善する必要があった。

 そのため、以下のPDCAを回すシステムを全社に展開し、多くの改善を積み上げてきた。

  • 社内の活動に伴うデータの収集と可視化
  • 分析による課題の発見
  • 改善対策の実施
  • 新たな課題の発見に向けたデータ収集項目の見直し

 

 

IoT事例の概要

 2016年7月に社長指示のもと、経営企画と情報システム部門をリーダーとして、社内主要部門の若手が集結したプロジェクトチームを結成した。その際、以下に示す5つのサブチームを編成した。
Aチーム:工作部門(製造設備機械の稼働を担当)
Bチーム:基本組立部門(基本部分の製造に関する人員稼働を担当)
Cチーム:オプション組立部門(カスタマイズ部分の人員稼働を担当)
Dチーム:調達・物流部門(部材の調達、面揃えを担当)
Eチーム:生産管理部門(製造状況、納期管理を担当)

内容詳細

 各チームの活動内容を紹介する。

(1) Aチーム(工作部門)

 製造に使用する設備機械の稼働状況の可視化等を実現するソフトウェア「NT-IoT」を自社開発したところ、休日の無人運転中に、加工材料切れで機械が停止しているケースが見つかった。対策として、休日夜間帯には加工時間が長い部材を優先的に加工することが考えられるが、膨大な部品種別と今流れている生産品目の組み合わせから、最適な加工部材を人間主導で決定することは不可能である。

 そのため、Eチームの活動と連携して、製造機械の稼働を最適化するためのスケジューリング・ソフトウェア「SDR」を自社開発し、運用に向けてテストを行っている。このように、稼働状況の可視化データから課題を発見し、関連する部門も含めて横断的な解決策を検討した。

(2) Bチーム(基本組立部門)

 カスタマイズによる変更が少ない、製品共通部分の組立工数を可視化するソフトウェア「NT-MSS」を自社開発した。従来から、細分化された工程毎の着手・完了は紙で記録していたが、作業が標準時間を超過した際の作業状況の記録等はExcelへ手打ちで残していた。しかし、このやり方ではデータ入力に非常に手間がかかり、かつ、鮮度の落ちたデータが溜まっていくだけであり、入力したデータから作業時間が長い工程が見つかった際に、その原因分析が作業者の記憶に頼る形になっていた。

 そのため、NT-MSSでは、各工程の作業時間に加えて、作業中に発生した問題等をコメントとして記録し、後の原因分析で利用できるようにした。

(3) Cチーム(オプション組立部門)

 オーダー毎に発生する、カスタマイズ対応部分の組立進捗状況を可視化するソフトウェア「Works」を自社開発した。

(4) Dチーム(調達・物流部門)

 部品の手配状況ならびに社内の運搬状況を可視化するソフトウェア「Supplies!!」を自社開発した。Suppliesでは、部品の調達・運搬(製造現場への配送)の効率性を測定するためのデータを収集している。

 上記に示すように、当社の取り組みは、先ずは設備機械の稼働状況の見える化から着手し、次に組立作業や物流・調達の効率改善、さらには組立工程のスケジュール最適化(SDRの開発)等、対象を拡大しながら課題の発見と改善を繰り返している。

 加えて、社長指示によって、生産以外の3つの部門(営業、技術、管理)の作業効率可視化にも着手した。

概要図

 表-1にこれまでの取り組みを時系列で示す。

年月 概要 詳細
2016年7月 IoTプロジェクト立ち上げ 社長指示のもと、生産性向上を目標に経営企画+情報システム部門をリーダーとして、生産現場の若手作業者を中心メンバーとして部門横断のプロジェクトの立ち上げ指示
2016年7月 IoT-PJを5つのチーム分け

A:工作部門 B:基本組立部門 C:OP組立部門 D:調達・物流部門 E:生産管理部門の5チームに分けて、各部門の生産性を向上すべく、IoT-PJをスタート

2016年11月 工作可視化ソフトの開発+リリース 社内の設備機械の稼働状況の可視化を中心としたソフト「NT-IoT」を自社開発(IoT-Aチーム)
2016年12月 組立進捗可視化ソフトの開発+リリース 組立の進捗状況を可視化するソフト「Works」を自社開発(IoT-Cチーム)
2017年4月 IoT-PJ専属部門の創設 IoT-PJを加速させるため、通常業務から切り離したIoT専属部門を創設(組立+工作+ソフト:3名)
2017年4月 組立工数取得ソフトの開発+リリース 組立工数を可視化するソフト「NT-MSS」を自社開発(IoT-Bチーム)(タブレット端末を生産現場に16台先行導入)
2017年6月 物流・調達可視化ソフトの開発+リリース 部品の手配状況ならびに社内での部品の運搬状況を可視化するソフト「Supplies‼」を自社開発(IoT-Dチーム)
2017年7月 工数分析ソフトの開発+リリース

工数集計した結果を分析するための分析用ソフト「Analyzer」を自社開発(IoT-A,B,C)

2018年2月 工作用スケジューラーの開発 工作用のスケジュールソフト「SDR」を自社開発。運用に向けてテスト中(IoT-A,E)
2018年2月 間接部門の可視化(営業/技術/管理本部) 生産以外の3つの本部(営業/技術/管理)の可視化を進めるべく、社長指示にて間接部門の可視化を計画
2018年4月 新”組立工数取得ソフト”の開発+リリース 現場+管理者の意見を元に全面改修し「新NT-MSS」を自社開発(IoT-B)(タブレット端末を生産現場に46台導入)
2018年5月 ”組立スケジューラーソフト”の開発+リリース 先の「新NT-MSS」をベースに全体計画から組立スケジュールを立案する機能を追加(IoT-B)
2018年8月 部品のロケーション管理ソフトの開発着手  
表-1 これまでの取り組み

 

取り扱うデータの概要とその活用法

 主要な収集データを以下に示す。

  • 設備機械の稼働状況。ここでは、単に機械の稼働・非稼働時間を収集するだけではなく、稼働中の機械が部材を加工している時間(機械が価値を生んでいる時間)を収集する等、データを細分化している
  • 加工している製品の品番情報
  • 作業工程毎の着手・完了と、所要時間、作業中の発生事象をコメントとして記録
  • 人の作業を、生産に関わる直接作業、直接作業に必要な付帯作業、生産に関係がない間接作業に分類し、それぞれの作業に要した時間を収集

 

事業化への道のり

苦労した点、解決したハードル、導入にかかった期間

 一連の取り組みでは、データの可視化、分析、工程最適化に必要なソフトウェアを全て自社開発した。開発は一からのスタートであったため、トライ・アンド・エラーを繰り返しながら進める必要があったが、社内のソフトウェア技術者育成を目的とし辛抱強く取り組んだ。

 当社は、従来からQC活動によって、作業の分析や観察等による生産性改善のための課題発見を行ってきた。今回のデータによる課題発見の導入当初、現場では新しい手法への戸惑いがあったが、この手法に慣れることによって、より早く改善点を見つけられるようになった。

技術開発を必要とした事項または利活用・参考としたもの

 ソフトウェアはオープンソース(OSS)を活用して開発工数低減を図った。プロジェクト開始当初は、OSSを使いこなすノウハウがなく、ネット情報を頼りにノウハウの蓄積を行った。

 

今後の展開

現在抱えている課題、将来的に想定する課題

 データを可視化するだけではなく、データから課題を見つけ改善につなげることを重視した。改善が始まると、次の課題を探すために、収集データやソフトウェアをどんどん変える必要があることが分かった。
 結果的には、この柔軟性を確保するために、各種ソフトウェアの自社開発を決断した。

強化していきたいポイント、将来に向けて考えられる行動

  • データ分析を高度化するための、機械学習、ディープラーニングの導入。
  • 現状は着手・完了をタブレット端末から作業者が入力しているが、自動入力できるようにしたい。
  • 当社は、工作機械メーカーであると同時に、製造に工作機械を使用するユーザでもある。この取り組みを通じて、生産性改善に結びつく工作機械のデータ活用を実現し、製品にフィードバックしたい。

将来的に展開を検討したい分野、業種

 この取り組みを、部材供給を行うパートナー企業(サプライチェーン)に広げたい。例えば、発注した部材の生産進捗の共有等を行いたい。

 

本記事へのお問い合わせ先

中村留精密工業株式会社

e-mail:taisuke-miyama@nakamura-tome.co.jp

URL:http://www.nakamura-tome.co.jp