株式会社クボタ
- 事業・業務の見える化
- コスト削減
- 事業・業務プロセスの改善
- 収集情報を活用した付加顧客サービス提供
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顧客へのサービス対応・サービス品質向上
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新たな顧客層の開拓、マーケティング
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故障や異常への迅速な措置
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最適経路・プロセスの選択
- 経営判断の迅速化・精密化
【活用対象】
- 企業顧客
- 一般顧客
IoT導入のきっかけ、背景
日本農業は大きな転換期を迎えている。2000年には234万戸あった販売農家(注1)が2017年には120万戸とほぼ半減し、農家の平均年齢も2000年の62.2歳から2017年の66.7歳へと高齢化が進んでいる。現在のペースで減少が続くと、販売農家は今後10年間でさらに半減することとなる。
このような状況を受け、農家の高齢化・離農による耕作放棄地の受け皿として、農業生産法人など農業を主業とする担い手農家(注2)に農地の集積が進んでいる。そしてこの結果として、農家一戸当たりの農地規模が拡大している。10ha以上の農地を持つ農家の割合は2015年時点で2.1%であるが、農地の割合で見ると農地全体の27%に達している。中には、100ha以上の農地を有する農家もある。国も国際競争力のある強い日本農業の再生に注力しており、2013年6月に閣議決定された日本再興戦略では、担い手農家が耕作する農地の割合を現状の5割から8割に引き上げることを目標にしている。
当社では、これら担い手農家が経営規模を拡大する中で浮かび上がってきた多数の圃場(注3)の適正管理(作業者管理の容易化や収量・品質低下への対応)、省力化による作業者の負担軽減、生産品の高付加価値化などの課題解決が急務であり、この解決には、データに基づく新しい農業経営が有効だと考えた。これを実現するため、全社的なプロジェクトを2011年に発足させ、「クボタスマートアグリシステム(KSAS)」を開発し、2014年6月に商用での提供を開始した。
本システムは、農機の稼働情報と圃場・作業・収穫に係わる情報を一元的に管理し、見える化を図ることで、データに基づくPDCA型の農業経営を実現するものである。その主な特徴は、①食味・収量センサを搭載したKSAS対応コンバインにより、圃場ごとの収量・食味データを取得できること、②圃場の登録・管理を電子化し、スマートフォン経由で簡便に作業指示を行うことや作業記録を容易に作成できることである。
注1:「販売農家」とは、経営耕地面積が30a以上又は農産物販売金額が50万円以上の農家をいう。
注2:「担い手農家」とは、農業経営基盤強化促進法に基づいて市町村から農業経営改善計画の認定を受けた農業経営者・農業生産法人のことをいう。認定を受けると、金融や税制面で支援を受けることができる。また、国の事業においても、この認定者であること、あるいは集団に認定者が含まれることが条件となるものが増加している。
注3:「圃場」とは、田、畑、果樹園など農産物を育てる場所のことをいう。0.2~0.3ha程度のものが一般的であるが、圃場整備により1ha程度や3ha程度の大規模なものも出現している。枚数で数える。
IoT事例の概要
サービス名等、関連URL、主な導入企業名
サービスやビジネスモデルの概要
- 作業者は食味・収量センサを搭載したKSAS対応コンバインで圃場ごとの食味・水分・収量データを収集。その後、スマートフォン経由でデータをKSASクラウドに送る。
- 農業経営者は収集された圃場ごとの食味収量データに基づき、圃場ごとに最適な施肥計画を立て、作業者に指示を送る。
- 指示内容に基づき、KSASに対応した施肥自動調量田植機・車速連動インプルメントを使い、圃場ごとに施肥を実施
- このサイクルを繰り返すことで品質・食味の向上と安定化をサポートする
- 2017年末の時点で4500軒を超える担い手農家や農業生産法人が本システムを利用し、登録圃場面積は47,000ha、圃場数では23万枚となっている。多くの作業を適切なタイミングで行う必要のある稲作が主体であるが、畑作や野菜作においても利用頂いている。顧客、特に大規模な担い手農家の方々からは、「圃場管理の効率が上がった」「米の収量・品質が上がった」と高い評価を得ている。
- KSASサービスの利用を契約頂く形態として、基本コース(KSAS対応農機がなくスマートフォン・クラウド機能のみ利用する場合:2,000円/月)、本格コース(KSAS対応農機の連動する場合:2,000円/月)の2つのコースがある。
内容詳細
(1)KSAS対応農機
農機の稼働情報と収穫に関わる情報を収集している。収穫に関わる情報としては、次の情報を収集している。
- 収量センサ(コンバイン):タンクに貯まったモミ重量を測定。
- 食味センサ(コンバイン):モミに近赤外線を照射し透過した光を分光分析することで、水分およびたんぱくの含有率を計測。圃場毎にデータを収集。
また、農家は、収集した情報から次のような価値を得ている。
- 収穫した米をたんぱく含有率に応じて仕分けて乾燥、調整、出荷することで、食味に応じた販売価格を設定することが可能になる。また、水分含有率に応じた乾燥を行うことで、品質の安定化や乾燥コストの低減が可能となる。
- センサが計測した前年の収量や収穫物のタンパク含有率から圃場ごとの特性を把握し、土壌分析データと合わせて適正な施肥量を設定。この施肥計画に基づき、スマートフォンを経由して作業指示を出すことで田植機の施肥量電動調量ユニットが圃場ごとに施肥量を自動調整し散布。従来から、土壌などの特性により圃場ごとに米などの出来(収量・食味)がばらつくことは知られていたが、データがないことから対策を講じることが難しかった。KSASでは、収集した収量・食味の分布図から圃場ごとのバラツキを把握し、適正な施肥計画を作成している。
- 今回開発した収量センサ・食味センサによるPDCA型農業の例として、当社で行った2011年から2013年までの3年間の実証テストでは、食味の改善・安定化と15%の収量アップなどの成果が報告されている。(40ha規模で換算すると約30トンの増収)
これによって、食味の改善・安定化と収量アップを図っている)
(2)KSASモバイル
- 従来、圃場の管理では紙の地図が使われることが多かったが、管理する圃場数の増加・分散に加え、作業の複雑化や作業者の習熟度が異なることにより、圃場や作業の管理が難しくなっている。このため、圃場を電子地図上に登録し、クラウドの画面上で作業計画を作成し、スマートフォン経由で圃場ごとに的確な作業指示を行うことができるようにしている。作業者は、指示された作業項目と電子地図上に指定された圃場の位置を確認し農作業を行う。また、他の作業者に割り当てられた作業の進捗状況も確認することができる。
- 日々の農作業の実績を記録する作業日誌の作成は、特に農繁期においては負担となる。KSASでは、登録された実績情報、農機の稼働情報や位置情報からこれを自動的に作成する。作業日誌には、必要なコメントを入力することや写真データを付けることも可能である。
(3)KSASクラウド環境
事務所のパソコン端末などから入力した各種情報(圃場情報、作業計画など)、コンバインで収集される収量・食味データ、農機の稼働情報、作業者がKSASモバイルで記録した作業実績情報などを蓄積し、これらの情報を分かりやすい形で農業経営者や作業者に提示する。これらの情報は現在、農水省が推奨しているGAP (Good Agricultural Practice)認証の取得や、若手農業者の育成にも役立つ。農作業の進捗管理に活用する、農機の稼働状況やメンテナンス情報を確認することも可能。また、当社の営業所で農機の稼働状態を把握し、エラーや故障発生時の迅速な対応とともに稼働情報に基づく点検整備や故障原因の予測など、農機の順調稼働をサポートしている。
取り扱うデータの概要とその活用法
KSASで取り扱っている代表的なデータは次のとおり。活用法については、「ビジネスやサービスの内容詳細」のところを参照。
- 圃場ごとの収穫量や食味に関するセンサデータ
- 農機の稼働データ
- 圃場情報・作業計画・作業記録(ウェブ画面から入力、電子地図データ、写真データを含む)
- 圃場や農機などの位置を確認するGPSデータ
事業化への道のり
苦労した点、解決したハードル、導入にかかった期間
- データによる農業経営のメリットを現場に理解頂くまでに、相当の苦労があった。当社の事業推進部門に加え、各地の販売会社と連携し、地域と密着した取組(交流会、研修など)を数多く行った。また、このような場で顧客ニーズを把握し、簡便に操作しやすいユーザインタフェースの開発などにフィードバックした。
- 導入頂いた農家の方を集めたお客様全国大会やお客様が交流できる場(Webサイト等)を提供している。
技術開発を必要とした事項または利活用・参考としたもの
- 自社開発
今後の展開
現在抱えている課題、将来的に想定する課題
圃場ごとのバラツキに着目し施肥管理に取り組んできたが、規模が拡大した圃場が増えており、圃場内の土壌特性の違いをより細かな単位で把握する必要があると感じている。
強化していきたいポイント、将来に向けて考えられる行動
- 稲作から畑作、野菜作への展開。
- 本システムは、現在STEP1の各種農機とのデータ連携によるPDCA型農業の実現を達成した段階。今後さらに高度化を進め、STEP2では次のとおり日本型精密農業を確立する。
- 圃場内の土壌や生育環境、生育情報、収量のバラツキをセンシングし、圃場単位からさらにきめ細かな施肥を可能とする可変施肥の実現
- 生育情報、気象情報、土壌情報、水管理情報などのビッグデータを活用し、品種ごとの生育予測や病害虫発生予測、外部環境の変化に応じた作業計画や水管理計画の最適化など、栽培プロセスの効率化
さらにSTEP3では、会計システムや販売システム、市況情報などの外部データ、圃場水管理システムなどと連携し、これらから得られるビッグデータをAIで分析することにより、農家の利益を最大化する事業計画や作付計画の作成支援など高度営農支援システムを構築する。(下図参照)
- 当社は海外売上が70%近くに達しており、当システムを東南アジアに展開することを検討している。
将来的に展開を検討したい分野、業種
- 顧客とのつながりは重要であり、今後とも地域密着、現場主義の方針は変えない。今後は、県の農業関係組織やJA様との連携を一層強化していきたい。
- STEPが進むにつれて、一社ではできないことが多くなると感じている。既に使用されている支援システムとの連携やICT技術の更なる活用を想定しており、農研機構や大学などの公的機関やICT企業と今まで以上に連携を強化する必要を感じている。
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