掲載日 2019年06月20日
IoT導入のきっかけ、背景
当社は、電力系統監視機器を主とした総合計測機器および計測システム、地震監視機器/防災関連機器の開発・販売を行っている。近年、地震や大型の台風、集中豪雨などによる土砂崩れや地滑りなどの自然災害が各所で発生している。豪雨による土砂災害によって、送発電網や上下水道などのライフラインが被害を受ける場合があり、これらのインフラを管理する企業・自治体では、土砂災害の危険性がある斜面の状態を継続的に監視する必要がある。こうした監視によって、設備が被災しないための対策を事前に施すことや設備の安定運用が可能となるためである。
台風などで豪雨が発生した場合、一時的に監視を強化する必要がある。その際、従来は気象庁の観測データから斜面の状態を判断していたが、ゲリラ豪雨のように局所的に発生する大雨は適切な気象データが得られない場合があった。また、豪雨発生後、人手による緊急点検を行う際に現地の状況が分からないため、作業員の安全確保などに様々な想定が必要であった。さらに、通常の点検においても、定期的に現地を巡回して目視などで行う作業をより効率的に行う必要があった。
こうした課題の解決には、IoTを活用した遠隔監視が有効である。そのため当社は、降雨量・斜面変位のセンシングとクラウドを使用した遠隔監視サービスを提供している。本サービスによって、設備管理者は監視データを基に、点検作業の省力化と作業安全性の向上を図ることができる。
IoT事例の概要
サービス名等、関連URL、主な導入企業名
傾斜・雨量等常時監視装置
~斜面変位監視と降雨量監視を一体化したクラウド型監視システム~
導入企業・業種:ライフライン・インフラ管理関連
サービスやビジネスモデルの概要
本サービスでは、大雨による被害の危険性がある場所に位置する設備の土台部分に「変位センサ装置」(複数個所)を設置し、「ゲートウェイ装置」を経由してクラウドにデータを送信する。収集したデータは、降雨量や斜面変位情報(傾斜角度の変化)としてWeb画面上、またはスマートフォン画面で可視化を行っている。設定した閾値を超えた際には、警報メールを送信することが可能である。
加えて、現地のリアルな気象情報(降雨量、気温、湿度、風速等)やカメラ映像を設備管理者へ提供する。設備管理者は、収集したデータや警報によって現地の状況を把握するとともに、現地作業の必要性や作業の安全確保などの判断を迅速に行うことが可能となる。
内容詳細
本システムの特徴を以下に示す。
(1) 設置が容易
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変位センサ装置は、杭等に取付ける構造となっており容易に設置が可能。加えて、バッテリ駆動できるため電源確保やケーブル敷設が不要。(写真-1を参照)
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ゲートウェイおよびカメラは、ソーラー給電によるバッテリ駆動のため、電源確保が不要。(写真-2を参照)
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クラウドサーバ(ASPサーバ)を使用した監視サービスのため、お客様によるサーバ構築が不要。
(2) メンテナンスが容易
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変位センサ装置は、市販のリチウム電池で約3 年、大容量リチウム電池で約5年間の動作が可能。(使用環境により変動)
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お客様で常時サーバ監視等のメンテナンスが不要なクラウドサーバ(ASPサーバ)を使用した監視サービスを提供することにより、お客様は管理業務に集中することが可能。
(3) 高信頼性通信
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変位センサ装置の無線通信は、メッシュネットワークで構成されており、最適な通信経路を自動的に確保し安定した通信が可能。また、マルチホップ通信機能により伝送距離を延長することが可能。
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通信の暗号化によるセキュリティの確保。
(4) 斜面変位は面監視が可能
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変位センサ装置を複数台設置することで点監視から面監視が可能になり、より正確に斜面変位を把握することが可能。
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温度変化に影響されにくい高性能センサを使用。
写真-1 変位センサ装置の設置例
写真-2 ゲートウェイ(左)、カメラ(右)の設置例
概要図
本システムの構成を図-3に示す。現地に設置する計測装置は、変位センサ、カメラとゲートウェイで構成される。
図-3 システムの構成
図-4にWebの監視画面やスマートフォンへの通知の概要を示す。
図-4 Webの監視画面やスマートフォンへの通知の概要
取り扱うデータの概要とその活用法
(1) 収集データ
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変位:傾斜角度(測定精度±0.2度以内(標準的な使用時は±0.05度以内))
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降雨量(mm)
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降雨量に関しては、時間雨量、積算雨量を計測するとともに、土壌雨量指数(気象庁「タンクモデル注」)も算出する。
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気温、湿度、風速
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センサを設置した場所の画像(静止画)
注:降雨により土壌中にどれくらいの水分量が貯まっているのかを指数化するためのモデル。もともとは1972年に国立防災科学技術センターの菅原正巳氏が、雨量から河川の流量を算出するための手法として提案したもの。現在、気象庁はタンクモデルを用いて土壌雨量指数を算出し、大雨警報(土砂災害)や土砂災害警戒情報などの判断基準に用いている。
(2) データ活用
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Web画面やスマートフォンへは各計測データの数値表示および、グラフを表示する。加えて、設定した閾値を越えた際には、警報メールを発報する。
事業化への道のり
苦労した点、解決したハードル、導入にかかった期間
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電源の確保ができない遠隔地で長期間の運用を行うために、センサの省電力化を行う必要があった。ゲートウェイもソーラーパネルによる運用を可能とした。
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データから現場の変位が分かった際に、データだけではなく視覚的にどうなっているのかを知りたいという要望があり、カメラを設置し、静止画像で確認できるようにした。
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導入先企業様の要望により、土壌水分計の設置を可能とした。
今後の展開
現在抱えている課題、将来的に想定する課題
斜面の変位が大きく変化する前に、降雨量と変位の関連性を更に詳しく知る必要のある場合は、土壌水分計を設置するなど、様々なセンサの対応が必要と思われる。
強化していきたいポイント、将来に向けて考えられる行動
雨量等の気象情報は、気象庁より提供されているが、お客様設備がある場所のピンポイントの気象情報は、その場所にセンサを設置しないと分からない。そのため、河川や道路、鉄道、送電線等の各種インフラ設備でこうした計測を可能とし、現在よりも速く設備の状態を確認できるようにすることによって、インフラ管理・経営判断の迅速化に寄与したい。
将来的に展開を検討したい分野、業種
河川や道路、鉄道、送電線等の各種インフラ設備を保有または、管理されている企業。
本記事へのお問い合わせ先
株式会社 近計システム 社会システム事業部 櫻井
e-mail : info@kinkei.co.jp
URL : http://www.kinkei.co.jp/
TEL: 06-6613-2531