株式会社ジョイ・ワールド・パシフィック
- 事業・業務の見える化
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コスト削減
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故障や異常の予兆の検知、予防
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故障や異常への迅速な措置
- その他(圃場・現場の見える化、環境制御、データの利活用、省力化)
【活用対象】
- その他(農業従事者、農業法人などを対象に活用)
IoT導入のきっかけ、背景
ジョイ・ワールド・パシフィック社のある青森県津軽地方は、言わずと知れたりんごの一大生産地。とある農家の相談が、本事例で紹介する製品開発のきっかけとなった。その農家の自宅(青森県平川市)とりんご畑(岩木山ふもとの弘前市貝沢地区)は約25Km離れており、車で50分程度の時間を要する。
畑との距離があるため、天気には人一倍気を使う。特に6、7月は好天が多く、水不足になりやすい。潅水のタイミングは、自宅の天気状況や「勘」によっていた。また、肝心の水は、トラックの荷台に置いたタンクで運び捲いていた。しかし、せっかく水を運んだのにりんご園は雨だったり、逆に大幅な土壌水分不足だったりした。「畑の環境がわかればジャストタイミングで潅水できるのに」との思いが強くなったと言う。
この農家の思いをかなえるために開発したのが「シーカメラ」という製品である。IPカメラ・ゲートウェイ・弊社センサやセンサメーカーの各種センサ・気象計などとの接続が可能で、閾値を設定しリモートで潅水するための電磁弁の操作や、防霜扇の操作などを行うための絶縁入出力接点を装備している。IPカメラのパン・チルト・ズームなどの操作もすべてリモートで可能である。
日本の耕作面積約450万haに対し、農業×IoT/ICTのスマートアグリの適用領域は、内5万haしかない収益性の高い施設園芸(*注1)に限られるのが現状である。当社は、「農業全体の450万haを良くしていこう!」を掲げ、「露地でも使用でき、様々なセンサがつながる環境、製品を!」「10年で取得する農業技術を、2年で6,7割の農業技術を取得できる様にする!」をミッションにしており、今回の事例開発を行った。
注1) 施設園芸: ガラス室やビニルハウスなどを利用して野菜,花卉,果樹などを栽培する園芸。
IoT事例の概要
サービス名等、関連URL、主な導入企業名
「シーカメラ」本体と、クラウドプラットフォームを提供。
http://seecamera.j-world.co.jp/
サービスやビジネスモデルの概要
- 機器本体と各種センサ(標準・オプション)の提供。セルラーによるクラウド通信を用い、データの格納ダウンロード、UI・Webアプリ、メール・アラート機能などを提供。
- 価格はオープンプライス。
- 北海道から九州まで販売・導入実績あり。
- ランニングコストとして、月々の回線、サーバー利用料が必要。
内容詳細
- シーカメラ(気象・環境計測・制御・IPカメラ機能を提供)
露地運用可能な筐体で、温度、湿度、大気圧、IPカメラ搭載、絶縁入出力ポート各6点を装備。オプションで日射、土壌、簡易気象計、920MHz帯特定小電力無線コーディネータ(親機)などを追加可能。加えて、ハウスでの環境計測、環境制御機器としての利用も可能。 - IoTプラットフォーム
センサデータ、演算結果、積算データの表示、カメラデータの管理、ダウンロード、閾値設定による自動制御、アラートメール、リモートによる機器制御などが可能。
これらを活用し、リンゴ園では、次のような運用、データ利活用を行っている。
- 土壌水分の遠隔監視データに基づき、適正、かんばつ、過湿ぎみなどの判定をおこない、アラートメールを発出する。これによりジャストタイミングで潅水弁をリモート制御し、適切な潅水を行った。
- 降水量などのデータは、自動的に計測しクラウドに記録される。このため現地へ行って確認しノートに記録する手間が省け、データ運用が容易になった。
- 秋肥(肥料)の土壌への浸透反応が確認でき、適正な施肥量の判断につながった。
- 冬季の凍土状態の終了が水分センサやカメラで確認でき、適正な剪定作業の開始時期を判断できた。
- りんご園の温度・湿度、日射、葉濡れなどの収集データに基づくデータ分析により、子のう胞子(*注2)の飛散日を予測し黒星病の防除タイミングを通知することができた。通知から10時間内に防除すれば、発生を抑えることが可能。
- 飽和水蒸気データや翌日の天気予測から霜の発生予測をおこない、95%の正答率を得られた。(霜発生は99.7%検出)
*注2) 子のう胞子: 子のう菌類(アオカビのような糸菌類、チャワンタケのようなキノコ上の菌類)から発生する胞子 リンゴの黒星病菌はペンチユリア・イネクアリス(Venturia inaequalis)
概要図
取り扱うデータの概要とその活用法
- 「環境計測」といわれる、農業や屋外気象のデータ:温度、湿度、CO2濃度、大気圧、土壌、風速・風向、降水量、紫外線量、照度、積雪深(水位)などのデータ
- 「環境制御」といわれる、灌水(弁やポンプ)、防霜扇、ミストの制御などでは、入力データとして、機器の出力ステータス、電磁センサなどのデータを使用
- IPカメラ、静止画カメラデータ(h264/Motion JPEG)などもデータとして取扱い
上記「環境計測」のためのセンサは、「シーカメラ」本体のセンサインタフェースに有線、あるいは無線(920MHz特定小電力無線のLoRa)で接続される。加えて「シーカメラ」はセルラー通信機能(3G/4G)を有し、収集したセンサデータをセルラー通信による閉域網経由、あるいはインターネット経由でクラウドに格納する。
事業化への道のり
苦労した点、解決したハードル、導入にかかった期間
当社は「環境計測・制御」機器の導入効果の高い施設園芸向けではなく、露地、果樹、水稲でも利用できる機器の開発を行なった。-20℃~+60℃程度の耐環境や防水・防塵機能の実現、電源の確保などで苦労した。
幸い、湿った重い雪の降る青森で5年間サービスを提供し機能を磨いたことで、北海道サロベツ、九州でも問題なく稼働している。
技術開発を必要とした事項または利活用・参考としたもの
多種多様なセンサインタフェースを接続するとともに、収集したデータを演算する機能を有する制御基板の開発。外注した920MHz帯特定小電力無線やセルラー用の通信機能の開発。閉域またはインターネット網の通信インフラの利用やサーバー・アプリ構築に関連する開発。これらの開発に当たっては、誰でも使えるユーザービリティを意識した。
今後の展開
現在抱えている課題、将来的に想定する課題
- データ取得にとどまらず、データを見るポイントやデータの活用法の説明が必要であった。また、データ活用については、今後ともフォローが必要。露地では、主に土壌の見える化、潅水制御、病虫害予測が重要。
- 費用対効果が重要。収穫量を10%増加できても、導入経費が高いと農家の収入増加に結びつかない。センサ、機器、インフラ、クラウドを含め、低価格化に一層努力することが必要。
- 気象予測を含めた、晩霜や病虫害発生予測の精度向上などが必要。
強化していきたいポイント、将来に向けて考えられる行動
- 露地土壌のセンシング技術向上
- LPWAによる広域にわたる圃場・現場のセンシングデータの収集
- 低消費電力化、原価低減
- 病虫害予測、霜などの気象予測の精度向上
- アジアなどへの農業ソリューションの展開
将来的に展開を検討したい分野、業種
- 農業法人、地方JAなど
- 建設分野(適切なセンサの選定により、シーカメラの適用分野を拡大したい)
本記事へのお問い合わせ先
株式会社ジョイ・ワールド・パシフィック ITビジネス課 佐々木憲昭