掲載日 2020年04月28日


IoT-EX株式会社

【提供目的】
  • 新たな顧客層の開拓、マーケティング

【活用対象】

  • 企業顧客

IoT導入のきっかけ、背景

 新型コロナウイルス(COVID-19)は、主に感染者との各種接触により伝染する事が報告されている。そこで、感染者の近くに一定時間以上いた人を特定するスマートフォンアプリが開発されている。

 例えば、シンガポール政府が提供している「Trace Together(トレース・トゥギャザー)」という名称のアプリである。このアプリをインストールしているスマートフォン同士が近づくと、端末ごとに割り振られたIDを近距離無線通信の「ブルートゥース」を使って交換し、記録する。感染した人がアプリ利用者の時は、保健省の職員が本人の同意を得た上でアプリ上の記録を手掛かりに感染者の近くに一定時間以上いたスマートフォン利用者を特定・連絡し、必要な措置を講ずる。

 このようなアプリの活用により、本人が気付かない濃厚接触者を追跡することができ、クラスター(感染者集団)の早期発見や感染の恐れがある人の早期隔離に効果がある。しかし、このアプリはスマートフォンの利用が前提であり、しかも大勢の人が利用しないと効果が高まらない。現在、シンガポールでの利用者数は110万人(2020年4月24日現在)であり、同国の人口約564万人の2割弱にとどまっている。

 現在、我が国においても緊急事態宣言が発令され、多くの企業がテレワークなどに取り組んでいる。しかし、在宅では対応できない業務に従事する方々、国民生活・国民経済の安定確保に不可欠な業務を行う方々は出勤されており、これらの方々の感染をどう防ぐか、感染を早期に発見しクラスター化をどう防ぐかが喫緊の課題となっている。

 現在、各企業の総務部門は、感染者が判明すると感染者や関係しそうな社員にヒアリングし、濃厚接触者を特定している。そして、電話やメールで連絡し、隔離状態を保ち、状況確認や定期的に報告するよう指示している。このやり方は、手間暇がかかり、かつ、本人の記憶に頼っているので、漏れがでるなど情報の信頼性に乏しいという欠点がある。そこで、濃厚接触者を特定するための仕組みを作れば、より効率的にこの業務を実施でき、かつ、早期対応が可能になるので、事業所閉鎖といった最悪の事態を避けることに貢献できるのではないかと考えた。
 

IoT事例の概要

サービス名等、関連URL、主な導入企業名

サービス名: Corona Tracer(コロナ・トレーサー)

サービスやビジネスモデルの概要

 この濃厚接触者特定サービス Corona Tracerは、「Beaconデータ収集システム」と「濃厚接触者特定システム」という二つの別々のシステムを、感染者が発生した時に限ってIoT-EX社が提供する「IoT-HUB注1」によって結び付けることで、感染者と濃厚接触した者を特定できるようにしている(特許取得済)。これによって、管理者(多くの場合、総務の担当者)が社員の普段の行動を監視することができないようにガードすることが可能となり、社員のプライバシーを守る仕組みとなっている(特許取得済)。

注1:この技術は、Beaconデータ収集システムの中で使われているIoTルータとともに、東京大学生産技術研究所での研究成果を社会実装したものである。詳しくは、こちらをご覧いただきたい。( https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/articles/z0205_00056.html )

なお、システムの利用料金は次のとおりである。
初期費用:50,000円、親機アプリ利用料:5,000円/台月、子機アプリ利用料:500円/台月
 

内容詳細

 現在、前述したように企業内で感染者が発生した場合、濃厚接触者の特定を手作業で行っており、膨大な時間と手間が掛かっている。これを、濃厚接触者を特定するための仕組みCorona Tracerの活用で迅速化し、BCP(事業継続性)対策に貢献する。

 具体的には、会議室に設置したBeaconやスマートフォンアプリを利用して、会議室にいた人のデータ(UUID注2、時刻、親機であるIoTルータと子機であるスマートフォンの距離)を自動収集する注3。この「Beaconデータ収集システム」には、個人情報は一切含まれない注4

 感染者から報告を受けた際には、総務担当者はCorona Tracerの管理画面から従業員の名前を入力する。そうすると、濃厚接触者特定システムは濃厚接触者のUUIDをBeaconデータ収集システムに送付する。このUUIDを基にBeaconデータ収集システムは、濃厚接触の恐れがあるUUIDを特定し濃厚接触者特定システムに送付する。そして、このシステムはUUIDと氏名を紐づけ、濃厚接触候補者リストとして出力する。管理者である総務の担当者は、そのリストの情報から優先順位を付けて濃厚接触者候補に連絡し、自宅待機や検査の指示、継続的な報告などの指示を行う。

注2:Universally Unique Identifierの略。UUIDは誰でもいつでも自由に生成することができるが、他のUUIDと重複が起きないような仕組みが担保されている。

注3:Corona Tracerでは、BLE(Bluetooth Low Energy)をBeaconとして活用している。スマートフォン同士でBeaconを活用し、濃厚接触を検知することも可能であるが、スマートフォンを持たない社員がいること、一部のスマートフォンはBLEの双方向通信が可能でないことを考慮し、IoTルータを親機として活用し、BLE双方向通信ができない社員にはBeaconタグを持たせることで全ての社員がシステムを使うことができるようにしている。スマートフォン間のBLE活用で収集したデータは、距離精度の向上など補助的な用途に活用されている。

注4:本システムの管理者はIDとパスワードをメールで社員に通知する。通知を受けた社員がアプリをインストールする際に送付されたIDとパスワードを入力するとスマートフォンの中で自動的にUUIDが生成され、氏名とともに濃厚接触者特定システムに登録される。Beaconデータ収集システムには、このUUIDのみが送付され記録に使用されるので、誰のUUIDか特定できない。
 

概要図

図-1  Corona Tracer(コロナ・トレーサー) Corona Tracer(コロナ・トレーサー)のシステム構成

 

取り扱うデータの概要とその活用法

 テキストデータ(UUID、時刻情報、距離情報)のみ。仮に一人のスマートフォンから、5分置きにデータを収集・保存すると、一人当たり一ヶ月で50-100Mバイト程度のデータ量になる。
 

事業化への道のり

苦労した点、解決したハードル、導入にかかった期間

 何よりも優先したのは、濃厚接触者を特定するサービスを最短時間で提供し、導入後も継続してサービスを拡充できるようにすることであった。そのために、前提条件として、スマートフォンを使うこと、アプリのダウンロードだけで実現できること、将来的にスマートフォンを持たない子供や高齢者にも対応できることを要件として決めた。この要件に合致する技術として、近距離通信技術であるBLEを「beacon」として使うことにした。

 その後、BLEの使い方を調査した。この結果、リアルタイム性に欠けPush広告のようなサービスには向かない、正確な位置情報を取得するには、多数のビーコン設置が必要で隙間なくカバーするためには置局設計が大変であることが判明した。しかし、人と人が近付いたことを記録し保存する目的ならば、多少のタイムラグがあってもサービスとしては問題なく、しかもあまりお金や手間を掛けずに実装可能であることが分かった。そこで、直ちに「Beaconデータ収集システム」のPoCを開発し、実用性を検証した。さらに、この内容を基に特許を申請した。

 そして、PoCで開発したシステムをベースに、どのようなサービスを提供すべきかさらに検討した。それは社員の命を守り、企業の存続を支援するためのサービスだという結論になった。このため、社員の健康を守り、業務生産性向上を支援するサービスとして当社が考えていたオフィスIoTサービスの一環として、「濃厚接触者特定サービス」を提供することとした。結果として、2週間ちょっとで検討から開発までを終了し、さらに4週間で販売準備を整えサービス提供に漕ぎつけた。

 このように短期間でオフィスに親機であるIoTルータを設置し、子機であるスマートフォンを持った社員がこれに近付くと記録する「beaconデータ収集システム」を開発することができた。一旦、このようなシステムを設置すれば、環境センサーを追加してオフィスの環境データ収集し、換気を促す、あるいは空気清浄機をオンにすることが簡単に実現できる。またスマートフォン所有者だけでなく、ビーコンタグを持たせることでスマートフォンを持たない人を検出することもできるようになる。

技術開発を必要とした事項または利活用・参考としたもの

 現在、コロナ対策ソリューションは、主に政府や保健機構が提供している。例えば、フランス政府は、一時的に国家がユーザデータにアクセスできるように、AppleやGoogle要求しているが、彼らは、それが政府によるバックドアとなり、ユーザのデータを保護できなくなると危惧している。そのため、彼らは、政府ではなく自分達自身が同様のサービスを共同で開発し、5月中旬に提供すると発表した。

 私達は、これらとは異なるアプローチを採用した。まず、収集するデータを個人情報に当たらないものだけに限定した「Beaconデータ収集システム」と社員の氏名と連絡先といった個人情報を扱う「濃厚接触者特定システム」という二つのシステムを作るアプローチである。二つのシステムを分けることによって、情報を遮断し、これらのシステムを必要な時に限り当社が提供しているIoT-HUBを使って疎結合することで、社員の行動の常時監視を防止しつつ、濃厚接触者を特定できるようにしている。
 

今後の展開

現在抱えている課題、将来的に想定する課題

 スマートフォン所有者の意思により、Beacon機能を切ることが可能である。また、屋内での正確な位置を割出すためにBeacon情報を継続的に利用することは、プライバシー侵害の危険性を危惧するAppleやGoogleによって、将来的には制限がかかるかもしれない。そのため、Beacon対応ができなかった人の扱いを考慮することが必要になるかもしれない。

強化していきたいポイント、将来に向けて考えられる行動

 当社が提供するIoT-HUB は、異なる会社のデータを契約に基づき限定的に情報共有する機能がある。この機能を活用すれば、同席した別の会社の社員にも感染リスクがあることを教えることが可能になる。

 また、導入企業が同意すれば、個人情報を伏せて、政府や自治体、または保険機関に情報を一括して提供することも可能である。これにより、感染者集団(クラスター)情報をいち早く提供することが可能になる。

将来的に展開を検討したい分野、業種

 新型コロナウィルス感染症が拡大する中、決済資金や事業資金の支援を行っている銀行やこのような状況下でも作業を止められない大手ゼネコンなどの業界に展開を図りたい。さらにビーコンタグの利用やGPSやLPWAなどを利用した広域での利用など機能の拡張、個人情報の取り扱い方法のさらなる改善などを図っていきたい。また、このような分野に強い企業との連携も図って行きたい。
 

関係省庁、スマートIoT推進フォーラムへの意見、要望等

 新型コロナウィルス感染症の拡大が一段落したら、次は経済復興に向けたソリューションが数多く必要になる。ICTの活用がこれらに貢献することを認識し、これらの活用や普及に向けた支援をお願いしたい。

 

本記事へのお問い合わせ先

IoT-EX株式会社

e-mail : jun.matsumura@iot-ex.co.jp

URL :  https://www.iot-ex.co.jp