掲載日 2018年09月11日
株式会社日立製作所

株式会社日立製作所

【提供目的】
  • 事業・業務の見える化
  • コスト削減
  • 事業・業務プロセスの改善
  • 収集情報を活用した付加顧客サービス提供
  • 新たな顧客層の開拓、マーケティング
  • 最適経路・プロセスの選択
  • 変動する需給バランスの最適化
  • 経営判断の迅速化・精密化
  • 収集情報を活用した新規事業の発掘

【活用対象】

  • 企業顧客

IoT導入のきっかけ、背景

 近年の少子高齢化によって、道路・交通分野においても利用者の減少が懸念される中、道路・交通事業者は利用者・乗客の利便性を損なわずに路線を最適化するなどの経営課題を抱えている。これらの解決のため、収集した多くの交通系IoTデータ(プローブ情報や乗客の乗降に関する統計情報など)を活用することが期待されるが、その利活用基盤は十分整備されているとは言えない。そのため、当社は、多種多様な交通IoTデータをビッグデータ分析することによって、交通需要や渋滞の発生状況を可視化し、事業者の経営効率化、新たなモビリティサービスの事業創出を可能とする、「交通データ利活用サービス」を開発した。

 当社は、従来から手掛けているITSや交通ソリューションビジネスにおいて、交通系IoTデータの分析・予測に関する技術を開発してきた。加えて、道路・交通事業者においては、IoT・ビックデータ時代の到来により、収集したデータを活用した経営効率化や顧客サービス向上の機運が高まってきた。そのため当社は、これらの交通関連技術を、サービスとして体系化することによって顧客課題の解決が可能となると考え、2017年4月に本サービスの開発に着手し、2018年4月に商用提供を開始した。

 本サービスは、主に高速道路事業者やバス事業者をターゲット顧客としている。これらの顧客がデータを活用する際に大きな課題となるのは、データフォーマットの違いである。例えば、バス事業者のケースでは、プローブ情報や乗客の乗降に関する統計情報から、停留所毎の乗降客数や停留所間の所要時間など、各種のデータが取得できるが、このデータは事業者によってフォーマットが異なる。

 そのため当社では、「交通データ利活用サービス」へのインプットデータのフォーマットを共通化し、このフォーマットに変換することで事業者固有のデータ形式に依存しない、事業者横断的な分析を可能とするプラットフォームを構築した。将来的には複数のバス会社が混在する路線における運行の最適化や、バス・タクシー間の連携など、MaaS(Mobility-as-a-Service)への拡張を見据えている。

 

IoT事例の概要

サービス名、関連URL

交通データ利活用サービス
 

サービスやビジネスモデルの概要

本サービスは、当社のIoTプラットフォーム「Lumada」のソリューションの一つである。

「交通データ利活用サービス」の提供形態には、以下の2種類が存在する。

  • サービスとしての提供:お客様が既存のプローブ情報や乗客の乗降に関する統計情報、運行管理システムから収集したデータを当社がお預かりし、分析を代行(*1)する。
  • システムとしての提供: 当社がお客様向けの分析基盤を構築し、お客様がデータの分析を行う。分析基盤の構築は、当社のクラウド上に構築するケースと、お客様のオンプレ環境に構築する形態が選択可能である。

(*1): 各種データは、道路・交通事業者などが、利用者・乗客から適切に取得することを前提とする。当社は、データを道路・交通事業者からお預かりし、セキュアな環境下で分析する。

本サービスの特徴

 本サービスでは、OD(Origin-Destination:起終点)情報、位置情報を元に各種の分析を行う。事業者毎に形式が異なるこれらの情報を変換し、プラットフォーム内部の共通フォーマットに統一している。データを共通フォーマットに統一することによって、タクシーなど、様々な交通事業者に本サービスを活用していただくことが可能である。

 また、データの精度向上に当社独自の技術を使用している。本サービスでは、車両の位置情報を可視化する際に、地図上にデータをプロットすることによって見やすさを高めているが、高速道路と一般道が隣接するようなケースでは、プローブの測位誤差から、どちらの道路を走行しているかを正しく表示できない場合がある。そのため、当社が大学との共同研究によって開発した、移動履歴や接続性を加味した位置補正技術を提供している。本技術によって、従来のマップマッチングに比べ、より精度の高い表示が可能となった。

内容詳細

提供している主要な分析サービスは以下の通りである。

①    高速道路事業者向け

  • 料金所間の交通量の可視化
  • 目的地までの所要時間
  • 車両の速度変化による渋滞発生状況の可視化

②    バス事業者向け

  • 区間毎の輸送需要と輸送能力の関係を分析・可視化
  • バスの運行状況や定時性の可視化
  • 利用者の属性(乗車券の種別から、学生、通勤客、高齢者を識別)に応じた路線やダイヤ編成の最適化を支援
  • 道路情報や旅客動態に関するオープンデータを使用することによって、バスの運行データが存在しない新規路線開設の事業計画を支援

上記の豊富なサービスメニューによる実業務への適用性の高さに関して、お客様から高評価をいただいている。

概要図

 高速道路事業者、バス事業者における本サービスの利用イメージを以下に示す。

高速道路事業者における利用例

 高速道路事業者向けサービスでは、料金所の通過データをOD情報、GPSなどの搭載車両から得られる走行データを位置情報として利用する。

 

 本サービスから得られた、渋滞情報や区間毎の通過時間は、高速道路上の表示板に表示される。本サービスを使用することによって、表示のリアルタイム性と精度を高めることが可能となる。また、首都圏の高速道路のように、入口・出口間に複数の経路が存在する場合、経路毎の交通量や通過時間の差異を予測することが可能となる。

バス事業者における利用例

 バス事業者向けサービスでは、停留所毎の乗客の乗降データをOD情報、バスロケーションデータを位置情報として利用する。

 バス事業者は、乗客の利便性を維持しながら収益を向上するために、定期的に路線やダイヤ編成を見直している。従来この作業は、熟練者が、膨大なデータを、経験に基いて処理することで行っており、実施に長時間を要した。本サービスを使用することにより、この作業を熟練者のスキルに依存せず、かつ短期間に行うことができる。

 本サービスでは、人手では実施が困難であったデータに基づくダイヤ編成も可能となる。例えば減便を行う場合でも、利用者の属性を加味することによって、通学客に影響を与えない範囲で行うことが可能となる。さらに、ダイヤ見直し後の輸送力の変化やコスト削減効果のシミュレーション機能を(本記事執筆時点で)開発中である。

取り扱うデータの概要とその活用法

以下のデータをお客様より提供していただく。データは、①OD(Origin-Destination:起終点)情報、②位置情報、③その他に分類される。

  • 料金所毎の通過車両数、車両の属性(ETCから取得)、料金所間の所要時間 ― ①に該当
  • 停留所毎の乗降客数、乗降客の属性(統計情報から判別)、停留所間の所要時間 ― ①に該当
  • 移動経路(緯度経度)情報、速度情報 - ②に該当
  • 気象情報、イベント情報などのオープンデータ - ③に該当

 

事業化への道のり

苦労した点、解決したハードル、導入にかかった期間

 本サービスのメリットをお客様に理解していただくためには、PoC(小規模の実証試験)を行う必要がある。PoCを実施する際に、お客様毎に異なるデータを、共通フォーマットに速やかにかつ安価に変換するためのツールの整備が必要であった。

技術開発を必要とした事項または利活用・参考としたもの

 本サービスの要素となる技術は、当社の研究開発部門や大学との共同研究の成果を利用している。例えば、プローブの測位誤差を補正する技術、プローブ搭載車両の数が少ない場合でも道路毎に混雑状況を正しく予測する推定補完技術等を開発している。

 

今後の展開

現在抱えている課題、将来的に想定する課題

 共通フォーマットへのデータ変換・マイニングの効率をさらに高めていきたい。このため、顧客が利用している様々なシステムのデータフォーマットを統一した形式に変換するソフトウェア群の整備が必要である。

 また、AIを用い、気象情報なども加味して、交通需要予測の精度向上を行いたい。即ち、気象など様々な条件によって、利用者の交通手段の選択がどのように変化するかを予測に組み込んでいきたい。

強化していきたいポイント、将来に向けて考えられる行動

 将来的には、事業者毎のリソースや経営の最適化からさらに進展し、複数事業者にまたがる、都市交通全体の最適化を支援できるサービスに発展させたい。そのためには、事業者や地域行政と広く連携を図っていきたい。

将来的に展開を検討したい分野、業種

 本サービスを、旅客動態の分析による商業施設の出店計画支援にも拡大していきたい。そのために、商業施設のディベロッパとの連携を図りたい。

 

本記事へのお問い合わせ先

株式会社日立製作所 公共システム営業統括本部 カスタマ・リレーションズセンタ

URL :   https://www8.hitachi.co.jp/inquiry/it/p-channel/general/form.jsp?q=toi105