平賀建設有限会社
- 事業・業務の見える化
- コスト削減
- 事業・業務プロセスの改善
- 収集情報を活用した付加顧客サービス提供
- 顧客へのサービス対応・サービス品質向上
- 最適経路・プロセスの選択
- 変動する需給バランスの最適化
- 経営判断の迅速化・精密化
- 収集情報を活用した新規事業の発掘
- その他(上記を通じたスピードの向上)
【活用対象】
- 自社の複数部門あるいは全体で活用
- パートナー企業含めたグループ内で活用
IoT導入のきっかけ、背景
当社は山梨県と静岡県に拠点を持つ土木工事を主体とした建設会社である。社員数20名強の会社であるが、ICTへの投資を果敢に行い、土木工事における設計や施工の効率化で大きな成果をあげている。
本記事の読者の方は、土木工事というと、道路、トンネルやダムの工事を連想されることが多いと考えるが、当社は、道路の敷設や圃場整備などの際に、地面を平らに整地するために行う「土工」(*1)に重点を置いている。土工は土木工事において広く行われているが、その一方で、土木工事の中で最も効率化が進んでいない領域の一つであった(図-1を参照)。また、建設機械(建機)を多用するものの、作業は重労働になることもあり働き方の面でも課題があった。こうした中、国土交通省が中心となり2008年から取り組んできた「情報化施工」をさらに進めて、ICTを全面的に活用して建設現場の生産性革命を目指す「i-Construction」が2016年にスタートした。
その一方で、当時の当社は赤字経営が続くことで債務超過に陥っており、存続の危機にあると言ってよい状況であった。こうした中でi-Constructionを知り、危機を乗り切る手段は、ICTを活用した生産性の向上しかないと確信した。生産性の向上によって、より多くの仕事を請け負うことで売り上げを伸ばし、また手戻りなどを減らすことによって利益を拡大できると考えた。
経営が苦しい中で資金集めに奔走し、2018年にi-Constructionを始めるために必要な融資を確保して導入を始めた。効果はすぐに表れ、財務状況は一気に改善した。その後も新しい技術導入のチャレンジと、それ使いこなすための研究を重ねることによって、今ではi-Construction導入前に比べて一人当たりの生産能力約10倍という飛躍的な生産性の向上を実現している。
(*1) 土工: 例えば写真-1に示すように、傾斜地に道路を敷設する際に、掘削によって地面を切り取って低くする「切土(きりど)」や地面や斜面に土砂を盛り上げて高くする「盛土(もりど)」を行うことで平らな面を作る整地を行う工事。また、盛土や切土によって出現した斜面(写真-1の右側)を整える「法面(のり面)」工事などがある。このように、土工は土を動かす作業が主体である。
写真-1 林道工事における土工
(出所:平賀建設Webページより転載)
図-1 土工における生産性の推移
(出所:国土交通省 i-Constructionの推進より抜粋)
IoT事例の概要
取り組みの内容、関連URL
取り組みの内容:i-Constructionを活用したICT土工
関連URL:
・当社の事業内容: https://hiragakensetsu.com/project/
・保有するICT機材: https://hiragakensetsu.com/equipment/
サービスやビジネスモデルの概要
先ず、従来型の施工方法とi-Constructionを導入した際のICT施工の違いについて説明する。(図-2、表-1を参照)
i-Constructionでは、測量、設計・施工計画、施工、検査に至る全ての工程でICTによる自動化や人の作業支援を行う。これによって、多くの工程で人手による作業と紙の資料に依存した従来の方法に対して生産性が大幅に向上する。
工程 | 従来の方法 | i-Construction |
測量 |
工事の目標地点(例えば、道路の中心線)にポールを立て、測量器械を用いて目標までの距離や角度を測定する。 この作業をポイントごとに繰り返すため人手と時間を要する。 |
ドローンに搭載したカメラやレーザースキャナー、地上レーザースキャナーを使用して測量を行う。測量した結果を3次元座標値の集合からなる点群データ化する。 効果:ドローンなどにより、短時間で面的(高密度)な3次元測量が可能。 |
設計 |
測量データを基に2次元の平面図や縦横断図を見て設計照査(受注者による現場と成果物が適切に作成されているかの調査)を行う。 図面の量が多く、かつ正確に読み取るためのノウハウが必要。施工するまで設計の不備が分からない場合があり、現場での手戻りが発生。 |
点群データを3次元CADにより点から面にモデリングし、施工後の形状や施工量(切り土、盛り土量)を自動算出。 効果:作業内容を事前にシミュレーションすることによる手戻り減。 |
施工 |
工事を着手する前に、図面に合わせて盛土の高さなどを示す目印の杭を設置する「丁張り」(図-1を参照)を行いオペレーターが建機をマニュアル操作。 熟練者でも掘削量などの目標値に対する誤差が発生しやすい。丁張りの設置と撤去に多くの時間を要する。 |
設計時に作成した3次元データを使用して、ICT建機のオペレーターにショベルの位置決めなどを指示するマシンガイダンス、さらにはマシンコントロールによる自動制御を行う。 効果:丁張りが不要となるため作業効率が向上。施工精度も大幅に向上。 |
検査 | 施工箇所の写真に加えて、膨大な帳票を作成することで出来形(設計通りの施工になっているか)を管理。 | 効果:ドローンなどによる3次元測量を活用した検査などにより、出来形の書類が不要となり、検査項目を削減。 |
表-1 従来型の施工方法とi-Constructionを導入した際のICT施工の違い
図-2 従来型の施工方法とi-Constructionの違い
(出所:国土交通省i-Construction委員会資料より抜粋)
内容詳細
当社がICT建機を使用して行っているICT土工の一例を示す。
(1) マシンガイダンスを使用した施工
現場に設置した測量機器(マシンガイダンスセンサー)が、GNSS(*2)を用いた現在位置の測位と同様に、油圧ショベルの位置を測位する。重機そのもの位置とアームの角度のセンシングは、重機に取り付けたチルトセンサーやジャイロセンサーからの信号や、重機に搭載したプリズムに当てたレーザーの光の反射を基に、重機に搭載してあるコンピューターが演算。このセンシングデータと3次元の設計データをリアルタイムに照合し、マシンガイダンス画面にショベルを向ける目標位置を表示することによって、オペレーターの操作をガイダンスする。(写真-2を参照)
(*2) GNSS: Global Navigation Satellite SystemはGPS を含む、人工衛星で自分の位置を調べることができる仕組の総称。GPSより精度が高い測位ができる日本の準天頂衛星システムもGNSSの一つである。
写真-2 マシンガイダンスを使用した施工
(出所:平賀建設提供資料)
(2) 出来形の管理
出来形とは、設計通りの施工になっているかを測定した情報で、受け入れ検査の際にも使用される。例えば、掘削工事を行った場合は、従来は丁張りを設置し、丁張りに対して掘削面の高さが上下何cmになっているかを作業者がメジャーを使って計測している場面の写真を撮って保管した。
ICT土工では、写真-3の左側に示すように、ICT建機のブレード(排土板)の高さをmm単位でセンシングして出来形のデータにできる。また施工を行った箇所についても、写真-3右側に示すように、3次元の設計データとICT建機の位置情報を照合することで管理ができる。これによって、従来の丁張りを使用した出来形管理を大幅に効率化することができる。
加えて、ICT建機のマシンガイダンスを使用することによって、mm単位の精度で施工することが可能になっている。
写真-3 ICT建機を使用した出来形管理
(出所:平賀建設提供資料)
概要図
写真-4に当社が保有するICT建機、写真-5に測量機材の一部を示す。2021年12月現在で、建機を合計15台と掘削機14台(内ICT建機13台)、測量機器を13個所有している。中には、市販品では当社がやりたいことが実現できず、社内で開発したマシンガイダンスシステムもある。こうした機材を工程に合わせて使い分けるため、今や作業員よりICT建機の数の方が多い現場がある。
測量、設計、施工で使用するソフトウェアには多くの種類やバージョンがあるが、組み合わせによっては動かない場合がある。当社は、ICTを使いこなすための日々の研究・調査に加えて、現場での経験やトラブルを解消した方法などを基に、最適なシステムを構築することに関してもノウハウを蓄積している。
このように常に最新のICT導入にチャレンジし、かつ使いこなすことによって、建設業界のベンチャー企業として自他共に認められる存在であり続けると同時に、ICTの活用によって仲間(当社では社員を仲間と呼んでいる)の働き方改革や賃金の向上にも取り組んでいる。
写真-4 保有するICT建機の一部
(出所:平賀建設Webページより転載)
写真-5 保有する測量機材の一部
(出所:平賀建設Webページより転載)
取り扱うデータの概要とその活用法
- 測量で取得した3次元座標データ
- 建機のセンサーデータ
- GNSSの位置情報
事業化への道のり
苦労した点、解決したハードル、導入にかかった期間
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仲間全員がICTを使いこなせるようになるための教育面では苦労があった。この点に関しては、社長である平賀健太自らが現場に出てICT建機に乗り、操作に習熟すると同時に発生したトラブルを逐次解決して、安定運用ができる段階に来たところで展開した。そして、社長自ら次の新しい技術へのトライを繰り返した。
-
ICT土工に必要なレーザースキャナーなどを使用した3次元測量の専門家がいなかった。そのため、社長自らが狂ったように勉強して技術を取得した。
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ICT土工は発注者側にも検収などでの対応が求められるため、山梨県にはマーケットがなかった。そのため、マーケットがあった静岡エリアに進出した。
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ICT土工が軌道に乗ってきた後は、仕事が増えても人が足りない状態となった。そのため、建設業界未経験者も積極的に雇用し、ICT建機の操作を教育した。建設業に転身してくれた仲間の新たな可能性を引き出せる職場作りに注力している。
技術開発を必要とした事項または利活用・参考としたもの
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機械同士をつなげることが既存の製品ではできないことがあり、マシンガイダンスシステムの自社開発を行った。
- 一連のICT土工への挑戦を通じて、冒頭に述べた通り導入前の約10倍という飛躍的な効率化を実現したが、これは、営業から設計・施工まで、全ての業務においてスピードを追求した結果である。結局のところ、生産性を上げるために一番必要なスキルは「スピード」である。
今後の展開
現在抱えている課題、将来的に想定する課題
- 新しい機材や技術を導入した場合、現場でのトラブルは日々発生するが、その場で解決しながら進んでいる。そのために、分からないことがあると、メーカーの開発者に納得が行くまで聞きまくっている。
強化していきたいポイント、将来に向けて考えられる行動
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東京のスタートアップと自動運転装置の開発に着手しマシンコントロールの本格的な導入を進めている (遠隔装置は開発済み)。
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東京のスタートアップと共同で、他社に対するi-Constructionのサポートを通じて、i-Constructionの普及展開を図っている。加えて、i-Constructionの導入を支援するコンサルティング会社を立ち上げた。
将来的に展開を検討したい分野、業種
- 海外の土木工事現場もまだ生産性が低いため、海外の工事をi-Constructionで行いたい。
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