更新日 2019年06月21日
IoT導入のきっかけ、背景
デルタ電子はエネルギー効率の向上に寄与し、エネルギー消費を削減することをミッションとして主に企業顧客向けの製品やソリューションを提供してきた。このため、新規ビジネスの種として、ビルや住宅でエネルギーを使用する機器の自動化・効率化というキーワードで面白い案件を探していた。一方、緑化についても興味を持っており、社内に植物工場を設け栽培ノウハウを蓄積していた。当社のミッションに沿い、かつ、今まで蓄積したノウハウや技術を活かせるIoT製品として出てきたアイディアが、本製品『foop』の開発につながった。『foop』は、植物栽培専用の環境(温室など)を別に用意しなくても、人間と同じ生活環境で簡単に植物を育てられる栽培器である。
『foop』の開発販売は、デルタ電子の関連会社であるアドトロンテクノロジーが行っている。
光合成による二酸化炭素の浄化と酸素の生成など、地球環境にも大きく関係する植物のひとつである野菜であるが、育てるには手間と時間がかかり、かつ、土地やハウスも必要となる。そこで「テクノロジーで野菜栽培を自動化・効率化できれば、もっと楽しくなるのではないか」と考え、土を使用しない水耕栽培のアイディアに辿り着いた。
野菜を種から育てることは一般には難しいが、電子レンジで「チン」する感覚で『foop』に種をセットしたら、数日(短期間)で食べ頃の野菜ができる時代を目指している。IoT技術の応用により、野菜栽培にイノベーションをもたらしたいのである。
IoT事例の概要
サービス名等、関連URL、主な導入企業名
サービスやビジネスモデルの概要
キッチンに設置できるお洒落でコンパクトな栽培機を提供。栽培機のトレイに溶液を入れ、種子のカプセルを設置し、スマートフォンアプリから野菜の種類をレシピとして選択するだけで栽培が開始される。
内容詳細
foopはスマートフォンアプリ連動型のIoT水耕栽培機である。野菜の発育や栽培機の状況を常時監視するため、本体に含まれる複数のセンサー(CO₂の濃度、水位、照明、ファン回転数など)で環境データを検出し、このデータをクラウド上で管理している。また、環境データについては、専用アプリで確認することができる。
foopでは、栽培開始時に指定した野菜の育成レシピとセンサーから得られた情報に従って、エアーポンプ、LED照明、ファンの強弱を自動調整する。これによって、温度・日照・養分などを気にすることなく、野菜を育成できる。また、デザインにもこだわったfoopは、コンピュータ機能付きの「野菜栽培インテリア」でもある。
●こだわりのデザイン
丸みのあるシリンダー型、ボタンのない設計、手触りの良い飛騨産の高級木材を使用。
野菜のある暮らしを考え、たくさんの工夫を詰め込んだ。
https://foop.cestec.jp/ja/design
●スマートで革新的な機能
スタイリッシュなデザインの中には、野菜の状況を見える化する「表情アイコン」など、たくさんの革新的な機能を詰め込んだ。普段の栽培では見えないところも、スマートにサポートすることで価値を創造している。
https://foop.cestec.jp/ja/function
●専用のアプリケーション
誰でも簡単に家庭菜園が楽しめるように、foopには専用アプリケーションを用意しており、いつも使っているスマートフォンから直感的に家庭菜園をはじめることが可能。
取り扱うデータの概要とその活用法
お手入れや収穫のタイミングなど、野菜の状態を最新のセンシング技術でチェックし、専用アプリケーションでお知らせする。
事業化への道のり
苦労した点、解決したハードル、導入にかかった期間
プロダクトの構想や試作は2014年から開始した。プロトタイプを制作し、植物が育つ製品として成立するかどうかの検証を積み重ねた後はデザインに拘り、プロダクトデザイナー/アートディレクターの神原秀夫氏に協力を打診。製品企画において、複数のスタートアップ企業などとの協業を行った。
その中で、中心的協業パートナーになっていただいたのは、Webやイベントなどのデザインまわり全般を手掛ける株式会社ロフトワークである。ロフトワークは、2012年3月に渋谷にデジタルものづくりカフェとして「FabCafe」オープンしており、2015年3月にこのFabCafe内で「Let's meet foop」と題したイベントを開催。プロトタイプ機を施設内に設置し、興味のあるユーザー層などのマーケティングをFacebookと連動して行った。続いて、女性向けのワークショップを開催し、参加者にfoopの試作品、つまりモノを見せずに「未来の家庭用水耕栽培」というコンセプトだけでアイディエーションをしてもらい、商品化に向けたニーズやデザイン、コンセプト作りに協力頂いた。
この結果、デザインや機能をリセットすることとなった。当初の製品は沢山の機能をつけていたが、そのほとんどはいらないと言われた。また、当初の四角いデザインはインテリア性がないと酷評された。このアイディアソンを通し分かったことは、ユーザーは植物の生長がうれしく、それが製品の価値となること。ユーザーに求められる本物の製品に近づくことができたと感じている。
ワークショップの風景
技術開発を必要とした事項または利活用・参考としたもの
全て自社内のノウハウと技術を駆使して開発を行った。ただし、ユーザーからのご意見に基づくアイディア創出、PoC、さらにはMade in Japanをコンセプトとしたデザインが関わる部分は、株式会社ロフトワークさまのご支援、ご協力をいただいた。
今後の展開
現在抱えている課題、将来的に想定する課題
ベランダなどで野菜栽培を行っているユーザーは多数いるが、それに比べ室内での水耕栽培に興味があるユーザーは少なくマーケットが小規模である。また、日本初のIoT水耕栽培機として弊社Webサイトから販売しているが、量販店や代理店などの販売チャネルは商流コストが高く製品の店頭販売が困難である。さらに、実物を見ることが出来ないWebサイトやSNSなどを活用したPRの難しさも感じている。
強化していきたいポイント、将来に向けて考えられる行動
現在、教育機関向けや農業者向けのサービスやそのための機能拡充を検討している。また、BtoBコラボレーションによるセンシング技術およびソリューションの提供を検討する予定である。
将来的に展開を検討したい分野、業種
弊社が本事業で培った技術とビジネスの枠組みは、農業とIoT技術の発展的な融合に寄与できるものと考えている。また、エネルギーと同様に、野菜栽培の分野でも地産池消が今後のトレンドの一つとなるのではないかとも考えており、その究極の姿として家庭栽培・消費があると思っている。
一方で本事業に採用しているIoT技術は、家庭栽培や商業農業の区別なく応用が可能であり、農業の見える化から自動化への変革に必要不可欠な技術と考えている。