掲載日 2019年09月04日

ダイキン工業株式会社

【提供目的】
  • 生産性向上、業務改善
  • 顧客サービス向上
  • 事業継続性
  • 新規事業・経営側面

【活用対象】

  • 企業顧客

IoT導入のきっかけ、背景

 地球温暖化防止のために、温室効果ガスの削減対策がグローバルに進んでいる。エアコンの冷媒として使用されるフロンガスも温室効果ガスの一つであるため、当社はGWP(地球温暖化係数)が低い新冷媒の開発やフロンガスの回収による環境対応を行っている。

 このような中、2015年4月に、これまでの「フロン回収破壊法」を改正した「フロン排出抑制法」が施行された。この法令では、運用中の空調機からフロンガスが漏洩するのを防ぐために、業務用空調機を使用するユーザーが保有する機器をリスト化し、運転音の異常や外観の損傷、熱交換器の錆の有無などを3ヶ月ごとに確認する「簡易点検」や、有資格者による3年に1回以上の「定期点検」の実施が必要となった。また、空調機ごとの「点検・修理履歴の保管」なども義務付けられた。

 フロン回収破壊法は、メーカーや回収事業者にフロンの排出抑制を求めるものであったが、フロン排出抑制法は加えてユーザーにも取り組みを求めるものである。この法令は、温暖化防止の観点からは極めて重要である一方で、専任の設備管理者を持たない中小規模の事業者には、オフィスや店舗の快適性を維持するために必要な空調設備の管理に加えて、新たな管理業務を求める点が大きな負担となっていた。

 そこで当社は、フロン排出抑制法対応に加え、その他付加価値を合わせて提供し、空調機の維持管理を総合的にサポートするための「アシスネットサービス」を2018年11月より販売開始した。このように当社では、冷媒の開発や回収という製品面での環境対策に加えて、事業者様の運用をサービスとしてサポートすることによって、空調機の製造~運用~廃棄のライフサイクル全体を通した環境対策を実現した。

IoT事例の概要

サービス名等、関連URL、主な導入企業名

サービス名:アシスネットサービス

URL: https://www.daikin.co.jp/fcs/assisnet_service/index.html

主な導入先:床面積1000m2以下、1000~5000m2程度の小規模ビルや店舗。

サービスやビジネスモデルの概要

 「アシスネットサービス」では、当社製空調機器をご使用の事業者様を対象に、①フロン排出抑制法対応、②空調機台帳管理、③運転異常時のメール通知、④空調機運転時間管理のサポートを年間7,200円/台(月々600円/台)で提供する。

内容詳細

 事業者様に設置いただいている当社製空調機器に、通信デバイスを設置し(写真-1を参照)、LPWA経由で収集した空調機器データ(各種センサーデータ・異常発報・運転時間など)をクラウド上に蓄積することによって以下のサービスを実現している。

写真-1 室外機に取り付けられた通信デバイス

 

(1) フロン排出抑制法対応

・3ヶ月ごとに管理者(事業者)様自身で実施いただく簡易点検をスマートフォンアプリで実施可能とした。点検時期をメールでお知らせし、アプリのガイダンスに従って点検を行うとWeb上に点検結果を登録する。(図-1を参照)

図-1 スマートフォンアプリを使用した簡易点検

 

・有資格者による実施が必要な定期点検は、ダイキンのサービスエンジニアにて実施する。その際に、日々取得するデータを活用し、現地点検時間を1/3程度に短縮することによって導入しやすい価格を実現した。

(2)  空調機台帳管理

・所有する空調機の各種点検/修理結果をWeb上で一括管理する。(図-2を参照)

図-2-1 空調機管理台帳(機器の一覧)

 

図-2-2 空調機器管理台帳(機器ごとの各種帳票)

 

(3)  運転異常時のメール通知

・空調機に異常が発生した場合には、登録先(管理者や販売店など)に異常内容をメール通知。即座に状況が把握でき、修理依頼が可能である。(図-3を参照)

・異常発生の履歴を蓄積し、見える化。

図-3 異常発生時の対応

 

(4)  空調機運転時間管理サポート

・取得データと空調機設置時期から推定稼働時間を自動反映。

・空調機の稼働状況を把握することによって、お客様に合った修繕/更新計画の予算化をサポート。(図-4を参照)

図-4  空調機運転時間管理サポート

概要図

 アシストネットのシステム概要を図-5に示す。

図-5 アシストネットのシステム概要図

 

取り扱うデータの概要とその活用法

 以下に示す、空調機器の制御に使用している室内機・室外機の各データを利用し、主にフロン定期点検、異常発生検知、稼働状況の把握に活用している。

・温度(室温・外気温など)

・異常発報内容

・運転時間

 

事業化への道のり

苦労した点、解決したハードル、導入にかかった期間

 当社では「エアネットサービス」という故障予知、緊急対応、省エネ運転を提供するIoT保守サービスを過去より販売しているが、ハイエンド向けのサービスのため、一部物件にはコストが合わず、幅広いお客様に受け入れられるサービスが必要であったため、新たにサービスをデザインした。その一方でサービスを早く立ち上げる必要があり、本格開発開始から10ヶ月程度でサービス提供を実現した。

 事業化に当たり苦労した点は、サービスのメニュー、価格及び通信規格の決定であった。特に、「通信規格の選定」には悩んだ。開発当時、ハードと通信費が安価なLPWAは、どれも開発段階やインフラ構築段階であった。各所より情報を集めて比較したが、都度新しい情報にアップデートされる中で、状況を見守っていると開発が遅れるのは目に見えていた。また、数多くあるLPWAの中から生き残るものがどれかなど、将来性もしっかり見越した上で決定を行おうとすると、都度アップデートされる情報に右往左往される懸念もあった。

 そのため、本サービスのコンセプトである、「フロン排出抑制法対応」と「幅広い顧客に受け入れられやすい価格帯」であることをぶれさせないことを前提に、開発スピードを重視して最終決定した。

 

技術開発を必要とした事項または利活用・参考としたもの

・室外機に取り付ける通信端末のハード及びソフト、データ処理部分のクラウドを新規に開発した。

・スマートフォンアプリケーションのUI(ユーザーインタフェース)に関しては、フロン排出抑制法施行当初に事業者様が行う点検をサポートするツールとして自社で展開していたDfct(ダイキンフロン点検ツール)を流用することによって開発期間を短縮した。

今後の展開

現在抱えている課題、将来的に想定する課題

・現状は、GHP(ガスヒートポンプ)式空調機、チラー(冷却水循環装置)商品への取付けに課題があり、ユーザーニーズはあるものの、全ての当社空調機器への展開が難しい。

・当社の多くの機器で本サービスを利用可能とするために、各空調機器より排出されるデータ形式の一元化などを今後検討して行く必要がある。

 

強化していきたいポイント、将来に向けて考えられる行動

・フロン排出抑制法の点検に限らず、通常の空調機定期点検サービスとして、さらなるデータの活用を図る。

・運転異常時のメール通知より半自動で当社へ修理依頼~受付を行えるシステムを構築する。

 

将来的に展開を検討したい分野、業種

 遠隔監視による運転データのみでフロン排出抑制法の点検対応が可能となれば、現地に出向くことなく、自動的に点検が可能な仕組みとなるため、多種多様なユーザーの管理工数削減に寄与すると考えている。

 

本記事へのお問い合わせ先

ダイキン工業株式会社 サービス本部 水野 秀紀

e-mail : hideki.mizuno@daikin.co.jp

URL :  http://www.daikin.co.jp/