IoT導入のきっかけ、背景
2012年の笹子トンネルの崩落事故を契機に、橋梁・トンネルの点検強化が義務化されるなど、社会インフラの維持管理の重要性が高まっている。道路の路面についても、道路の老朽化が進む中で事故を防ぐためにその管理業務の必要性が高まっている状況にある。
道路管理業務では、現在、目視点検や専用の路面性状測定車により劣化状況を調査し修繕判断を行っている。前者は低コストであるが定量的で正確な調査は困難、後者は定量的で正確な調査は可能であるが高コストである。このため、特に道路の大部分(80%以上)を占める市町村道を管理する地方自治体では全ての管理道路で調査を行うことは非常に難しい状況にある。
当社では、オフィスや家庭の警備だけでなく、トンネルなどで非常事態が発生した際に駆けつけ一次措置を行う社会インフラに関する警備も行ってきた。警備事業で培った監視、駆けつけ、巡回点検などの強みを社会インフラの維持管理に活かし、社会の安全性向上に貢献することができると考えたのである。
そこで当社は、2014年よりJIPテクノサイエンス、東京大学が進めている路面性状評価の実証実験に参画し、道路の維持管理に資するサービスの検討を進めてきた。その結果、当社車両に測定機器としてスマートフォンを設置し、走行から得られる加速度情報を分析することによって、IRI値(注)の算出および路面の異常箇所(ポットホール、段差等)の検出を行い、モニタリング情報から効率的な舗装修繕計画を策定する「道路モニタリングサービス」の提供を2016年12月に開始した。本サービスにより調査コストの削減の他、データに基づく計画的かつ平準化した修繕工事が可能となりライフサイクルコストを抑えることができる。
注:IRI値:舗装の平坦性(乗り心地)を客観的に評価する指数(International Roughness Index)
IoT事例の概要
サービス名等、関連URL
道路モニタリングサービス
https://www.alsok.co.jp/company/news/news_details.htm?cat=2&id2=818
https://www.alsok.co.jp/corporate/road_monitoring/
サービスやビジネスモデルの概要
- 当社の車両に設置したスマートフォンの加速度センサから、走行中の路面の凸凹を計測し、100m区間毎にIRI値を算出、また局所的な異常箇所(ポットホールなど)の検出を行う。
- IRI値(0~10)を5段階に色分けし、走行した100m区間毎に地図上に表示するとともに修繕要区間や異常箇所を表示する。
- 車載カメラにより路面の画像を撮影し地図上に表示するとともに、IRI値の悪い区間や異常箇所を画像で確認することが可能である。
- 収集したモニタリング情報を活用することで、著しい損傷が見つかってからの事後保全ではなく、損傷具合の事前把握や損傷の早期発見に基づく予防保全や計画的な舗装修繕が可能となり、トータル的にコストを抑えながら道路の安全確保が可能となる。
- 約4000台保有する当社車両により、全国をカバーする調査が可能である。
- 想定する提供先は、道路管理を行う地方自治体様。価格:年額2万円/km(基本サービス、年間往復4回以上走行)
内容詳細
本サービスの主な特長は以下の通り。
- 汎用機材(スマートフォン、車載カメラ)を使って多くの車両に簡単に装備でき、IRI値を精度よく、かつ、安価に算出可能とすることで路面状態のモニタリングを容易化したこと。専用の路面性状測定車では、年間10万円/kmの費用が必要と言われている。
- IRI値を精度よく算出するには、荷重変動の少ない車両を用い一定速度で走行することが必要である。当社が警備事業ではバスやトラックのように荷重変動がなく、また、夜間走行する場合が多いので一定速度で走行することが容易である。また、当社車両が行う巡回など日常業務走行を通じてモニタリングすることにより、対象道路の大部分を効率よくカバーできる。
概要図
取り扱うデータの概要とその活用法
- スマートフォンの加速度センサ、位置情報
- 車載カメラによる路面画像
事業化への道のり
苦労した点、解決したハードル、導入にかかった期間
- 2014年2月より内閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)インフラ維持管理・更新マネジメント技術」において、JIPテクノサイエンス、東京大学が進めている「インフラ予防保全のための大規模センサ情報統合に基づく路面・橋梁スクリーニング技術の研究開発と社会実装」の実証実験に参画し、10数台の車両を使った実証実験を繰り返すことで計測精度を高めた。しかしながら、計測データから精度よくIRI値を算出する手法を実証し、商用化が可能と見極めるまでには時間を要した。
- 精度を高める上で、車両の特性(荷重や重心など加速度に関わる要因)に合わせた調整(キャリブレーション)が重要である。このため、計測データおよび算出したIRI値と実際の路面状態との確認を繰り返し、技術の完成度を向上させた。
技術開発を必要とした事項または利活用・参考としたもの
IRI値算出アルゴリズム、異常箇所の検出方法の開発は、東京大学およびJIPテクノサイエンス株式会社が行い、当社はその開発成果の実証・商用化を行った。
今後の展開
現在抱えている課題、将来的に想定する課題
現段階では本サービスは、IRI値(乗り心地の指標)を用いて路面状態をデータで把握し、また、異常箇所の検出を行うことで、路面の劣化箇所を安価で効率的にスクリーニングするものである。しかしながら、自治体の道路管理担当の方々がこのような新しい技術に慣れておらず、負担の大きい道路パトロールや目視確認自体に直接踏み込んだ機能拡充を要望する声が多い。
強化していきたいポイント、将来に向けて考えられる行動
異常箇所の種別(ひび割れ、ポットホール、段差など)やその程度を把握するため、AIによる画像認識やレーダー探査技術などの最新技術を活用した、より精度の高いモニタリングサービスの開発を進めたい。
(例)
- AI画像認識技術による、路面状態の自動認識、路面変状検出の精度向上
- 画像解析によるひび割れ率の算出
- レーダーによる空洞探査。損傷が路面に現れる前に異常(下水管の老朽化や腐食による道路陥没など)を発見
将来的に展開を検討したい分野、業種
AIによる画像認識やレーダー探査技術などの技術を有する企業