韓国・中国のICTを活用したCOVID-19対策

~AI for Good Global Summitより~

 

 

 

掲載日 2020年6月18日

一般社団法人情報通信技術委員会 金子麻衣

 

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な流行によって、各国でICTを活用した対策が行われている。今回はIoT導入事例の特別編として、韓国・中国におけるCOVID-19対策を紹介する。

 AI for Good Global Summitは、政府、産業界、学術界、メディア、37の国連関係機関、ACM(米国コンピュータ情報学会)、XPRIZE財団をパートナーとして結集したAIに関する国際的なイベントで、今年はWebinarでAIとICTを活用した社会的課題を解決する事例を紹介している。本稿は、その事例から韓国と中国のICTを活用したCOVID-19対策を紹介する。

 

1.  韓国におけるAIとICTの活用事例

1.1  スマート検疫システム

 2015年のMERS(中東呼吸器症候群)感染拡大を食い止められなかった失敗からスマート検疫システムを整備、感染症が発生した国からの渡航に関する情報を関係部署(検疫所・外務省・疾病予防管理センター(以下、KCDC)、通信キャリア等)で収集し、検疫を徹底した。
 

1.2  ドライブスルー検査

 他の患者との接触を防ぐ目的で、市役所や体育館の駐車場等約85の検査施設が運用された(3月19日時点)。検査数は平均で1日1.5万件(最大2万件)、累計検査数は3月25日時点で35.8万件(日本では5月11日に達成)に及ぶ。検査は10分ほどで終了し、結果は3日以内にSMSで通知される。
 

1.3  感染者・接触者の追跡

 政府が運営する感染者情報サイトは、年齢・性別・職場・おおよその住所・利用したコンビニ・移動に使用した電車等事細かく公開している。患者自身から得られた情報の他、「感染病の予防及び管理に関する法律」に基づき、クレジットカードの利用履歴、防犯カメラ、電話の位置情報、医療記録等のビッグデータを活用している。サイトを元に、有志が「Corona 100m」アプリを開発。感染者の位置情報が確認できる他、感染者が立ち寄った場所の100メートル以内に利用者が近づくとアラームがなる。
 

1.4  官民連携のマスクアプリ

 健康保険審査評価院(HIRA)は在庫データを、情報社会振興院(NIA)は販売店舗の名前、在庫数、日付等を収集している。通信会社のKTがそれらの情報にアクセスするAPIを提供。スタートアップ企業B-Brosが提供するマスクアプリ(図1)では、地図上に色で在庫の有無やおおよその個数を表示。大手ポータルサイトのNaverやKakaoも情報を提供している。
 

図1 マスクアプリ(病院予約アプリ「DdocDoc」を運営するB-Brosが提供)
(出典:BRIDGEニュース「韓国の新型コロナ対策が賞賛を集める裏にはスタートアップの努力が大きく貢献」)

1.5  ボットサービスの活用

 大手ポータルサイトNaverのAIプラットフォーム「Clova」では、感染者に1日に2回自動的に電話をかけ、発熱や呼吸器症状をチェックするボットサービスを提供している。結果はメールで保険センターに共有される。
 

1.6  検査キットの開発や検査プロセスの迅速化

 バイオテック企業Seegeneは、AIによって検査キットの開発期間を大幅に短縮した。研究開始から3週間後にはKCDCに申請書類を提出、通常1年半かかる承認プロセスを大幅に短縮し1週間後には承認した。既に世界60カ国1,000万テストを販売した。AIを活用した医療ソリューションを提供するVUNOは、肺のX線とCTを3秒以内に撮影し、集中医療が必要な患者を3秒以内にスクリーニングする分析アプリを開発し、自社ホームページ上で無償提供している。
 

1.7  新薬開発

 AIを活用した先進医療企業DEARGENは、ウイルスに対処できる化合物を特定するAIディープラーニングアルゴリズム(MT-DTI)を開発、HIV薬がウイルスの外側にあるタンパク質を無効にすること発見した。ガン治療薬開発企業ARONTIERは、ウイルスを迅速に治療できる候補物質を発見するためのAIプラットフォームを開発している。政府は、新薬開発の平均期間を15年から半分の7年に短縮することを目指し、2019年に今後3年間でAIを使用した医薬品開発を支援する投資(258億ウォン(23億円))を発表、スタートアップの躍進を後押ししている。
 

1.8  検査キットの開発

 MiCo BioMedは、陽性か1時間で検出できる高速分子分析システム「VERI-Q PCR316」を開発。短時間で結果が出るポータブル型のため、空港や医療センター等に設置された。バイオテックのAhram  BiosystemsとDoknip Biopharmは提携して、30分でウイルスを特定できるバッテリ駆動型のポータブル検査機器「Palm  PCRTM(Ultra-Fast Mobile PCR System)」を開発。複数のウイルスに感染していると探知できないが、一回の充電で4時間以上操作ができるため、ニュー・ノーマル下で様々な施設での活用が見込まれる。
 

1.9  学習支援

 小学校3年生以上は、4月9日から韓国教育学術振興院(KERIS)・教育放送公社(EBS)が開発したシステムを活用して一斉にオンライン授業を開始した。経済的に困窮する家庭には、端末等の支援が行われる。Catch It Playが運営するモバイル英語学習アプリ「Catch It English」は7月31日まで、Classumは質問・通知・フィードバック・アンケート等授業に必要な機能が揃うオンライン教育サービスを学校・教育機関に6月30日まで無償提供。Classting Inc.が提供するCLASSTINGは、小・中学校の数学・科学・社会・英語の4科目をサポートするAIベースの個別学習システムを一ヶ月無償提供した。
 

2.  中国における5G・AI・ロボットを活用した対策

2.1  中国の状況と主な対応

 武漢市の28の指定病院等を支援するために4.3万人の医療スタッフが全国から集められた。病院を建設するために、何千人もの建設作業員が日夜問わず対応した。初期の段階で複数の省庁間を調整する機能や、マスクや防護服などの医療品を管理するプラットフォームが構築された。全国31の省・直轄市・自治区のうち22の地域で、5Gを用いた何らかの対策がとられた。デジタル医療のベストプラクティスが、中国情報通信研究院(CAICT)から公開されている。主な内容は、①遠隔医療と医療専門ネットワークの応用例、②5G医療応用例、③AI応用例、④農村地域の応用例、⑤工業インターネットの応用例、⑥ロボットの実例、⑦インターネット病院の事例、である。
 

2.2  クラウド病院の整備

 チャイナテレコムは、新病院の建設に合わせて5Gネットワークを駆使したクラウドシステム環境を一週間程度で構築した。1月23日に新病院の建設が開始、24日から5Gネットワークの敷設を行い26日には完成。システムには、病院情報、検査情報、画像保管、待合予約等が含まれる。病院が完成する前に遠隔医療が開始された。
 

2.3  5Gを活用した遠隔診断

 武漢の病院と、専門家のいる北京の人民解放軍病院を5Gでつなぎ、患者の診察記録と検査結果をリアルタイムで確認しその場で診断が行われた。5Gの広帯域、低遅延の特徴により、数十枚の高解像度画像の転送を数秒で実現した。カメラ等必要なデバイスを搭載し、CTデータ等を即座に送信す る「5G遠隔医療カート」が活躍した。
 

2.4  検査プロセスの迅速化

 南海大学と深圳Tuan xiang Technology(ビデオ監視システム)は、高解像度のCTデータを数秒で処理できる診断システムを開発し、感染者のスクリーニングに活用した。AlibabaのDAMO Academyチームは、20秒以内にCT画像を分析するAIを開発。医師の診断時間の60分の1程度で精度は90%以上という。スタートアップのinfervisionは、肺のCT画像から感染の可能性が高い場合にアラートを出し、医師の診断をサポートする。2017年創業のDeepwise Technologyも、クラウドベースの画像診断支援ソリューション「Dr.Wise Cloud」を提供する。
 

2.5  ワクチン開発

 Global Health Drug Discovery Institute (GHDDI)とAlibaba Cloudが協力してAIとビッグデータを活用した薬剤の研究開発プラットフォームを構築。Alibaba創業者の馬雲の財団は、ワクチン開発を支援するため1億円を寄付し、スーパーコンピューター等を無償で提供、感染者のウイルスからDNAを抽出したゲノム計算や、国内外にある大量の文献分析に使われている。
 

2.6  公共における対応測定システム

 集団感染リスクを低減するため、AIを活用した赤外線サーマルイメージング技術によって駅・空港・地下鉄・ショッピングモールなどの人口密集地域の歩行者の温度検出を実施。従来のシステムでは、混雑した場所では熱源が多すぎて画像を効果的に識別できないが、新システムは、温度が正確にわかる顔を認識できるように調整した。
 

2.7  症例の追跡と分析

 CAICTと通信キャリア(China Telecom, China Unicom, China Mobile)が共同で、全国の携帯電話利用者16億人に旅程紹介サービスを提供した。QRコードをスキャンするかWeChatで認証して簡単に使うことができる。アプリに表示されたコードの色で感染状況を表す。赤色は「感染」、黄色は「濃厚接触の疑いまたは隔離が必要」、緑色は「問題なし」。政府が個人ごとに状況を判断して色を変える。アプリの使用は任意だが、コード確認は空港や駅のほか、飲食店や商業施設でも求められるためほぼ義務に近い。
 

2.8  資材関連プラットフォーム

 MIIT(中華人民共和国工業情報化部)によって構築されたA national key medical supplies dispatching platformは、21の主要な医療資材(マスク、防護服、ゴーグル、医薬品等)の収集・統計・解析・監視・スケジュール設定などができるプラットフォームである。CAICTの保健資源需給プラットフォーム(図2)でも、リアルタイムで医療資材の需要と共有をマッチングするサイトを運営している。

図2 CAICTの需給マッチングプラットフォーム

2.9  医療現場のロボット活用

 医療現場では、自律移動式で室内や空気を消毒する医薬品メーカーWisdomのロボットや、医療従事者に代わって薬や食事を病室に届ける配膳・ケイタリングロボットが活躍した。広東省人民病院は、電動インテリジェントカーの新興企業サイテックから二つのインテリジェントロボ「Ping Ping」「An An」を導入し、事前に入力された病棟とベッド番号に従って患者に薬を届けた。ハイテク企業Beijing Yunji Technologyは、10台を超えるロボットを武漢黄山山病院と杭州ポイントアイソレーションホテルに提供し、薬やケータリングの輸送を行った。

参考文献
(一社)マルチメディア新興センター 特集ページ:新型コロナウイルス感染症×ICT
AI for Good Global Summit(https://aiforgood.itu.int/