豊橋市上下水道局
フジテコム株式会社
- IoT等を活用した社会課題解決の取り組み
- IoT等を活用した実証実験等の取り組み
- IoT等の自社内業務等での利活用
【関連する技術、仕組み、概念】
- IoT
- ビッグデータ
- DX
- 4G
【IoT等の利活用分野】
- 公共
【IoT等の利活用の主な目的・効果】
- 生産性向上、業務改善
- サービス・業務等の品質向上・高付加価値化、顧客サービス向上
- 事業継続性向上
課題(注目した社会課題や事業課題、顧客課題)
当市は、2022年5月に「豊橋市スマートシティ推進方針」を策定し、スマートシティの取組を推進するにあたっての考え方や方向性を明らかにしている。また、これに先んじる形で上下水道局は、2021年3月にAI・IoTなどの新技術導入に取り組むことを盛り込んだ「豊橋市上下水道ビジョン 2021-2030」を発表している。自治体として、市民生活の向上や業務の改善などに力を入れて取り組んでいる。
当市においては、水道事業への取り組みが早く1930年(昭和5年)から水道を供用開始したこともあり、水を運ぶ管路の老朽化が進んでいる。法定耐用年数を超えた管路の割合が類似団体の平均よりも高い数値となっており、漏水事故のリスクが年々増加している。一方で、技術職員が減少し、管路の維持管理に必要なマンパワーや経験知が不足するという課題を抱えている。
IoT等利活用の経緯(課題解決の鍵となる技術・アイディアの発想やビジネスパートナーとの出会い等活用に至った経緯)
漏水を早期に検出するため、2013年から漏水リスクが高い場所にフジテコム社の管路漏水監視システムを導入し、データ収集を開始した。このシステムはネットワークに接続されていないので、月2回、現場に出かけていきデータを収集し、そのデータを持ち帰って分析し、漏水の有無の確認を行っていた。このやり方では、漏水が発生してからそれを把握するまで最長2週間かかる。この対応を迅速化し、また、業務自体を効率化するため、2020年度からフジテコム社が開発したクラウド型IoT遠隔漏水監視システム「リークネッツセルラー」を用いて実証試験を行った。実証試験による試行錯誤の結果、期待通りの効果が得られるようになったので、2021年度から導入を開始している。現在、このシステムを市内28か所に設置して運用している(2023年2月末現在)。
フジテコム社によると、当市が同システムを初めて導入した後、26事業体(2022年8月末現在)に導入が拡大している。なお、当市のこの取り組みは、モバイル技術を活用したシステムで成果を上げているとして、モバイルコンピューティング推進コンソーシアム(MCPC)の「MCPC award 2022」のユーザ部門グランプリ及び総務大臣賞を受賞している。
事例の概要
サービス名等、関連URL、主な導入企業名
サービス名:クラウド型IoT遠隔漏水監視システム「リークネッツセルラー」
関連URL:https://www.fujitecom.co.jp/products/iotlnl-c/
サービスやビジネスモデルの概要
高感度な音圧センサーを搭載した機器を仕切弁や消火栓など管路の付帯物に設置し、管路を伝播する音圧レベルを測定する。このデータを、マンホールの金属製蓋の下にとりつけた通信ユニットから第四世代携帯電話のIoTサービス向け通信方式であるLTE-Mを使ってクラウドに送信・蓄積し、モバイル端末で常時漏水の有無を確認できるようになっている。また、漏水発生時には、通知メールが送られてくる。(図1参照)
ビジネスやサービスの内容詳細
クラウドに蓄積した音圧レベルの測定データは、フジテコム社が開発したアルゴリズムを使って分析され、毎日、漏水判定結果という形で見ることができる。漏水判定結果は、Google Maps上で測定箇所を示すシンボルの色で表示されている。青(正常)⇒黄⇒赤(漏水の可能性大)へと、色で漏水の可能性を示しているので、管路の健全度を一目で把握することができる。また、判定で漏水が検知された場合はその旨をメールで通知してくれるので、漏水通知メール受信日に即日調査や修繕をおこなうなど漏水事故の影響を最小限に食い止めることが可能になっている。
図1:豊橋市上下水道局漏水事故早期発見システム(遠隔漏水監視システム「リークネッツセルラー」)の概要(出所:豊橋市上下水道局提供資料)
取り扱うデータの概要とその活用法
- 「水道管路の音圧データ」を毎日分析し、漏水発生を迅速に発見している。
事例の特徴・工夫点
IoT等による価値創造
市民の皆さまに安全で安心な水を提供することを可能とし、また、健全な水道事業運営を実現するために必要な次のような価値を生み出している(図2参照)。
- 水道管路の維持管理業務の大幅な効率化:従来は職員が現地に出向いてデータ収集を行っていたが、その作業が不要となり60人/月の業務量を削減することができた。この削減できた分を漏水調査業務、漏水修繕業務、立会業務などに振り替えている
- 水道管路の維持管理対応レベルの高度化:漏水発生から修繕まで最大2週間あったタイムラグがなくなった
- 経験知の補完:従来は、職員の経験知によって収集データから漏水の有無を判定していたが、アルゴリズムによって漏水の自動判定を毎日行ってくれるので、経験が少ない職員でも漏水発生状況を速やかに把握することが可能となった
- BCP注発動時の迅速かつ的確な業務の遂行:非常事態発生時において、事務所で漏水発生エリアを把握することができるので、BCPで定めた目標復旧時間を達成する最適計画を立案しやすくなった
注:Business Continuity Planningの略。災害などの緊急事態における企業や自治体などの事業継続計画のこと。
図2:遠隔漏水監視システム「リークネッツセルラー」導入による業務の変化
(出所:豊橋市上下水道局提供資料)
IoT導入や事業化時に苦労した点、解決したハードル、解決に要した期間
システムを提供し実証試験を実施したフジテコム社からは、マンホールの金属製蓋の下方に通信ユニットを取り付けざるを得ず、安定したデータ取得が可能になるまで苦労したと聞いている。センサー部と通信ユニットを分離して通信ユニットの設置位置を工夫したこと、電波強度の強い携帯電話事業者を選択することなどでこの課題を解決したと聞いている。また、センサー部と通信ユニットは、省電力設計により1年間電池交換不要のメンテナンスフリーとなっている点もありがたい。
重要成功要因
当市の水道施設が抱える課題を明確化し、「市民のみなさまに水道水を安定供給するためのサスティナブルな水道事業運営の達成」という大きなゴールを設定し、また、システム導入に当たっては「①データ収集・分析及び保安措置人員の削減という業務効率化」「②漏水発生から2日以内の修繕指示」という目標を設定したことではないかと考えている。もちろん、当市のゴールや目標を理解し、その達成に向けシステムを改良してくれたフジテコム社の努力が大きいことは言うまでもない。同社からは、実際に事業で使われている管路で実証試験できたことで、技術的問題点のクリアが促進されたと聞いている。
技術開発を必要とした事項または利活用・参考としたもの
当市はユーザでありこの項目は該当しない。
今後の展開
現在抱えている課題、将来的に想定する課題、挑戦
システムの導入箇所を増やしていきたいし、AIによる漏水判定精度の向上にも取り組みたい。また、スマートメータと組み合わせた漏水監視体制の強化も実施したい。あと、本システムを活用した奥三河地域における遠隔漏水監視の支援も検討課題である。
技術革新や環境整備への期待
管路の劣化予測技術の進展に期待している。
強化していきたいポイント、将来に向けて考えられる行動
今後は、システムの価格低下、及び費用対効果を見極めながら、本システムの設置箇所数を増加し、更なる漏水監視体制の強化を図っていきたい。また、本システムで蓄積したデータを、管路更新計画やBCP作成の参考資料として活用していければと期待している。
将来的に展開を検討したい分野、業種
水道事業のDX化に有用な技術やシステムを持っている企業などと連携し、水道水の安定供給とサスティナブルな水道事業運営の達成というゴールを実現したい。
本記事へのお問い合わせ先
フジテコム株式会社 営業本部 山本 裕司
e-mail : e-honbu@fujitecom.co.jp
TEL:03-3865-2960
関連記事
【ここに注目!IOT先進企業訪問記】第73回 水道インフラを支えるフジテコムのクラウド型IOT遠隔漏水監視システム「リークネッツセルラー」