株式会社NTTドコモ
- 企業・自治体等向け製品・サービス等の提供
- 一般消費者向け製品・サービス等の提供
- 社会課題解決の取り組み
【関連する技術、仕組み、概念】
- IoT
- ビッグデータ
- AI
- DX
【利活用分野】
- 流通・小売
- 情報通信サービス
- 金融・保険
- 運輸・交通
- 公共
- ヘルスケア・医療・会合
【利活用の主な目的・効果】
- サービス・業務等の品質向上・高付加価値化、顧客サービス向上
事例の背景
課題(注目した社会課題や事業課題、顧客課題等)
日本では、60兆円を超える医療費・介護費の抑制と健康寿命の延伸が喫緊の課題である。これを解決するには、国民一人ひとりが自身の健康リスクを把握し、主体的に行動変容を起こすことが不可欠である。一方で、健康状態を客観的かつ多角的に評価することは容易ではない。
現状では、アンケート回答や医師による問診といった方法が主流であるが、これらは一定の手間を伴い、国民全体を対象とした継続的な評価には限界がある。特に、加齢に伴い心身の機能が低下する「フレイル」は、要介護状態に至る前段階として重要な指標であるものの、健康診断やイベント参加時など、限られた機会でしか把握できていないのが実情である。
こうした背景のもと、医療現場や行政に過度な負担をかけることなく、日常生活の延長線上で健康リスクを把握し、早期の気づきと行動変容につなげる仕組みが必要だった。
IoT等利活用の経緯
スマートフォンは日常生活において常に携帯され、睡眠、運動、外出といった生活習慣を自然に反映するデバイスである。NTTドコモでは、このスマートフォンから得られる利用ログを活用することで、利用者に負担をかけずに健康状態や生活習慣リスクを推定できるのではないかと考えた。
スマートフォンのログは、利用者が能動的に入力する情報ではなく、日常利用の中で受動的に取得できる点に特徴がある。この特性を生かし、生活習慣に基づく健康リスクを客観的かつ継続的に評価する技術の研究開発を進めた。
さらに、自社サービスにとどまらず、より多くの人に価値を届けるため、開発したヘルスケアAIをプラットフォームとして提供する構想を検討し、社外パートナーにも開放する取り組みへと発展していった。
IoT事例の概要
サービス名等、関連URL、主な導入企業名
技術名:HealthTech基盤(ヘルスケアAI)
URL:https://www.mcpc-jp.org/award2022/pdf/2025_10.pdf
導入企業:NTTドコモ、NTTドコモビジネス、自治体、民間企業
サービスやビジネスモデルの概要
NTTドコモは、1億人規模の会員基盤から得られるスマートフォンの利用データを活用し、利用者の健康リスクを日常的に推定する複数のヘルスケアAIを開発している。フレイル推定AI、血圧上昇習慣推定AI、免疫力推定AI、脳の健康チェックAI、健診予測AIなど、豊富なラインナップを揃えている点が特徴である。
これらのヘルスケアAIは「HealthTech基盤」として集約され、API(Application Programming Interface)を通じて社外パートナーにも提供されている。自社サービスに限らず、自治体向けサービスや他業界のサービスに組み込むことが可能な基盤として設計されており、幅広い社会実装を目指している。
HealthTech基盤では、スマートフォンの利用ログから日常的な健康リスクをAIが推定する。利用者はあらかじめデータ利用に関して同意する以外に特別な操作をすることなく、睡眠や運動、外出といった生活習慣の改善点とその具体的な目標を受け取れる。これにより、利用者は無理なく日常生活の中で健康行動に取り組むことが可能となる。
HealthTech基盤は、スマートフォンから取得した各種ログデータを入力として、複数のヘルスケアAIをAPIとして提供するプラットフォームである。保険、自治体、医療、食品、エンターテインメントなど、さまざまな分野のパートナーがこの基盤を通じてAIを活用できる構成となっている。(図1,2参照)
図1:HealthTech基盤 全体像(出所:NTTドコモ提供資料)

図2:HealthTech基盤の活用イメージ(出所:NTTドコモ提供資料)
取り扱うデータの概要とその活用法
- 睡眠習慣データ:平均睡眠時間、就寝時刻、規則性
- 運動習慣データ:平均歩数、活動量
- 行動習慣データ:外出頻度、移動距離、行動範囲
- その他の利用ログ:スマートフォン操作状況等
これらのデータを特徴量としてAIモデルに入力し、健康リスクの推定や行動変容のためのアドバイスに活用している。
事例の特徴・工夫点
価値創造
従来、健康状態の評価にはアンケートや問診といった方法が用いられてきたが、継続的な実施には被評価者の負担が大きかった。HealthTech基盤に搭載された各ヘルスケアAIは、スマートフォンのログのみを用いることで、利用者の負担を最小限に抑えながら、日常的な健康リスク評価を可能にしている。
代表的な例がフレイル推定AIである。厚生労働省が定めるフレイルチェックシートを正解データとして活用し、スマートフォンログとの相関関係を学習することで、アンケートを実施せずにフレイルリスクを推定できる仕組みを実現した。さらに、推定結果に基づいて利用者自身に個別化された改善すべき生活習慣を提示し、行動変容を促す点も特徴である。
苦労した点、解決したハードル、導入にかかった期間
事業化にあたって特に重視したのが、AIの信頼性である。健康分野においては、推定結果の妥当性や効果に対する納得感が不可欠であるため、複数の実証実験を通じて検証を行った。
「令和4年度東京都次世代ウェルネスソリューション構築支援事業」では、フレイル推定AIの精度検証に加え、利用者の約半数で健康意識の変化が確認された。さらに、介護費用抑制効果についても試算が行われ、1人あたり年間約5000円という数値として具体的な成果も示された。
重要成功要因
AIモデルの開発で最も苦労した点は、期待した精度が出ない原因の特定だった。机上でいくら考えても分からないことがしばしばあった。チームメンバーで議論を重ね、過去の医学的な知見をもとに仮説やアイデアを出し合い、決して諦めずに試行錯誤を繰り返した結果、現在の精度に到達した。
また、医学的な妥当性を確保するため、専門医による監修を受けながらモデル設計やアウトプット表現の調整を行った点も、信頼性向上につながっている。
技術開発を必要とした事項または利活用・参考としたもの
長年にわたる研究開発を通じて築いたアカデミア(大学・研究機関)との連携を生かし、各分野の専門医から医学的な監修を受けている。これにより、学術的なエビデンスに裏付けられたヘルスケアAIの開発が可能となった。
今後の展開
現在抱えている課題、将来的に想定する課題、挑戦
NTTドコモでは、スマートフォンログを活用したヘルスケアAIの社会実装を進めてきたが、現時点で提供できている価値は、健康長寿という大きなテーマに対しては、まだ入口段階にあると捉えている。人々の健康状態や生活習慣は多様であり、単一のAIや限られた指標だけで十分に把握できるものではない。
短期的には、既に商用提供しているヘルスケアAIを軸に、事業ニーズや社会的要請を踏まえたラインナップの拡充を進めていく。中期的には、複数のAIを組み合わせて活用できるHealthTech基盤としての価値を高め、より継続的な健康支援を可能にしていく。
技術革新や環境整備への期待
産業界には多様なPHR注が存在している一方で、サービス間での連携やデータの持ち運びには課題が残っている。今後は、PHRのポータビリティ確保や標準化に向けた技術的・制度的な環境整備が重要になると考えられる。
NTTドコモでは、関係省庁や業界団体との連携を通じて、利用者本人の同意を前提としたデータ利活用が円滑に進む環境づくりに関与していく。
注:Personal Health Recordの略。生涯にわたる個人の健康や身体の情報を記録した健康・医療・介護などのデータのこと。
強化していきたいポイント、将来に向けて考えられる行動
今後は、HealthTech基盤を通じた共創の広がりを一層強化していく。API提供を通じて、パートナーが自社サービスにヘルスケアAIを組み込みやすい環境を整え、共創事例の蓄積を進めていく。
こうした取り組みを通じて、より多くの生活者に健康行動変容の機会を提供していくことを目指している。
将来的に展開を検討したい分野、業種
HealthTech基盤は、医療・ヘルスケア分野に加え、金融・保険、製薬、小売、娯楽・レジャー、自治体など、生活者との接点を持つ多様な分野での活用が想定されている。今後は、これらの分野での活用事例を積み重ねながら、社会実装の幅をさらに広げていく。
本記事へのお問い合わせ先
株式会社NTTドコモ クロステック開発部 医療・ヘルスケア技術開発担当
e-mail : xt1-inquiry-ml@ml.nttdocomo.com

