
株式会社NTTドコモ
- 社会課題解決の取り組み
- 実証実験等の取り組み
【関連する技術、仕組み、概念】
- IoT
- ビッグデータ
- AI
- DX
【利活用分野】
- 流通・小売
- 情報通信サービス
- 金融・保険
- エンターテイメント
- 運輸・交通
- 公共
- ヘルスケア・医療・介護
【利活用の主な目的・効果】
- 生産性向上、業務改善
- サービス・業務等の品質向上・高付加価値化、顧客サービス向上
- 新規事業開拓・経営判断の迅速化・精緻化
事例の背景
課題(注目した社会課題や事業課題、顧客課題等)
近年、企業や自治体においてデータに基づく意思決定の重要性が高まっており、社会課題の解決においてもデータ活用は不可欠な要素となっている。しかし、単一の組織が保有するデータのみでは把握できる範囲に限界があり、より多面的に事象を捉えるためには異なる組織間でのデータ連携が求められていた。
一方で、異業種間でデータを連携する場合、個人情報や機密情報の取り扱いに関する法的・プライバシー上の課題が大きな障壁となっていた。データを相手企業に開示することで個人の行動や属性が推測される可能性があるほか、集計結果から個人が特定されるリスクもあり、従来は安全性を十分に担保した形でのデータ連携は困難であった。
こうした背景のもと、株式会社NTTドコモ(以下ドコモ)は、組織を跨いだデータ活用を可能としながら、プライバシーを確実に保護する技術の必要性に着目し、秘匿クロス統計技術の研究開発に取り組んだ。
利活用の経緯
上記の課題を解決するため、ドコモは、企業が互いに自らのデータを相手に明かすことなく、プライバシーが保護された統計情報を作成できる「秘匿クロス統計技術」を開発した。
本技術は、NTT株式会社(以下NTT)の研究成果である「セキュアマッチングプロトコル(PSI-CA)」に、集計結果から個人が特定されないよう数学的に保証する「差分プライバシー」、CPU内の保護領域で処理を行う「隔離実行環境(TEE)」という、性質の異なる3つの先進技術を組み合わせることで実現している。単一の技術では満たすことが難しかった「データ連携中の秘匿性」と「集計結果でのプライバシー保護」という2つの安全性要件を、複合的な技術構成によって両立させた。
秘匿クロス統計技術の有用性を検証するため、ドコモは社会課題解決を共通の目的とするパートナーとして、日本航空株式会社(以下JAL)および株式会社ジャルカード(以下JALカード)に提案を行った。モバイル空間統計の事業化で得た「実証による社会的受容性の獲得が重要」という教訓を活かし、2022年から航空機の定時性向上や地域活性化という公益性の高い課題での実証実験を開始した。
事例の概要
サービス名等、関連URL、主な導入企業名
- 技術名:秘匿クロス統計技術®
- URL:https://www.docomo.ne.jp/corporate/technology/rd/aggregation/001/
- 導入企業:JAL、JALカード※実証実験で導入
サービスやビジネスモデルの概要
秘匿クロス統計技術は、企業や組織が保有するデータを互いに開示することなく、安全に掛け合わせ、プライバシーが保護された統計情報を作成する技術である。これまでプライバシー上の制約により困難であった異業種間のデータ連携を可能にし、交通、観光、地域活性化などの社会課題解決に貢献することを目的としている。
秘匿クロス統計技術では、各社が保有するデータを非識別化・暗号化した上で、暗号状態のまま集計処理を行う。集計結果には差分プライバシーに基づくノイズを付加することで、出力される統計情報から個人が特定されることを防止している。
実証実験では、JALが保有する搭乗に関する情報と、ドコモが保有する携帯電話ネットワークの運用データを組み合わせ、航空機利用前後の移動傾向に関する統計情報を作成した(図1、図2参照)。なお、本技術は現在、実証実験段階にあり、サービス化については未定である。

図1:秘匿クロス統計技術の概要(出所:ドコモ提供資料)

図2:秘匿クロス統計技術の処理の流れ(出所:ドコモ提供資料)
取り扱うデータの概要とその活用法
JAL・JALカード・ドコモの実証実験は、下記のデータを利用している。
- JAL:搭乗に関する情報を含む顧客データ
- ドコモ:携帯電話ネットワークの運用データの一部(位置情報、属性情報)
これらのデータを秘匿クロス統計技術で掛け合わせ、航空機利用前後の移動傾向を把握するための統計情報を作成し、航空機の定時性向上や地域活性化施策に活用した。
事例の特徴・工夫点
価値創造
秘匿クロス統計技術により、従来はプライバシー上の制約から困難であった異業種間のデータ連携が、実用的かつ安全な形で可能となった。企業が互いに自社データを開示することなく統計情報を得られる点は、本技術の大きな価値である。
航空分野での実証実験では、JALの搭乗関連データとドコモの携帯電話ネットワーク運用データを連携し、航空機搭乗前後におけるお客さまの移動状況を統計的に可視化した。これにより、搭乗前にどの工程で時間を要しているのかが明らかとなり、空港内での案内や支援の改善につながった。
また、北海道での地域活性化に関する実証実験では、航空機利用者が空港到着後に訪問するエリアを定量的に把握した。複数空港の訪問エリアを重ね合わせることで、訪問者が拮抗するエリアを明らかにし、広範囲の周遊促進策を検討するための知見を得ている。
これらの取り組みにより、単独のデータでは把握できなかった行動傾向を明らかにし、顧客体験価値の向上や地域活性化に資する意思決定を支援した点が、本技術による価値創造である。
苦労した点、解決したハードル、導入にかかった期間
異業種間で安全にデータを連携するためには、「データ連携中に他社へ自社データが明かされないこと」と、「出力される統計情報から個人が特定されないこと」という二つの安全性要件を同時に満たす必要がある。
しかし、これらを単一の技術で実現することは困難であった。ドコモでは、NTTの研究成果であるセキュアマッチングプロトコル(PSI-CA)に加え、差分プライバシーを適用した秘匿処理技術、隔離実行環境(TEE)を組み合わせることで、実用的な処理速度と高い安全性の両立を実現した。
重要成功要因
・技術面でのブレイクスルー
「データ連携中の秘匿性」と「集計結果でのプライバシー保護」という2つの安全性要件を、NTTの「セキュアマッチングプロトコル(PSI-CA)」、ドコモの「差分プライバシーを適用した秘匿処理技術」、「隔離実行環境(TEE)」という性質の異なる3つの先進技術を組み合わせることで同時に実現した点が鍵となった。
・社会実装戦略の成功
モバイル空間統計の事業化で得た「新技術は実績なしに受け入れられない」という教訓を活かし、社会的な理解を得ることを第一に考え、まず航空機の定時性向上や地域活性化といった公益性の高い課題での実証実験を通じて有用性を示す段階的アプローチを採用した。情報処理学会業績賞、MCPCアワード2025 、SCAT表彰会長賞などの外部評価の獲得も、社会的受容性の確保に貢献した。
・効果的なパートナーシップ
NTTグループの技術力と、JALグループが有する実データおよび現場の具体的な課題を掛け合わせ、実際の社会課題解決に直結する実証実験を実現できた点が成功要因である。
技術開発を必要とした事項または利活用・参考としたもの
本技術では、非識別化処理、セキュアマッチングプロトコル(PSI-CA)、差分プライバシーを適用した秘匿処理、隔離実行環境(TEE)といった技術を組み合わせて活用している。これにより、処理過程で人の目に触れることなく、意図したプログラムが実行されていることを技術的に保証している。
今後の展開
現在抱えている課題、将来的に想定する課題、挑戦
現在、秘匿クロス統計技術は交通・観光・地域活性化分野での活用が中心である。今後は、他分野への適用可能性を検討し、社会課題解決につながる具体的なユースケースの創出が課題である。
特に、データを保有する主体や目的が異なる分野においても、秘匿クロス統計技術で出力した安全な統計情報が活用できるかを検証していく必要がある。
技術革新や環境整備への期待
本技術は現行の法制度に適合した形で、プライバシーを保護したデータ連携を実現している。今後、安全なデータ連携技術の活用が社会的に推奨される環境整備が進むことで、企業間データ流通の加速が期待される。
強化していきたいポイント、将来に向けて考えられる行動
今後は、秘匿クロス統計技術を活用するパートナーとの共創を進め、どのようなデータの組み合わせが価値創出につながるかを検討していく考えである。
将来的に展開を検討したい分野、業種
将来的には、地域活性化や防災分野に加え、社会インフラ、物流、スマートシティなど、より幅広い分野への展開を検討している。
本記事へのお問い合わせ先
株式会社NTTドコモ モバイルイノベーションテック部社会予測技術開発担当
e-mail : pcat-info@ml.nttdocomo.com
