掲載日 2025年12月09日


株式会社MizLinx
(ミズリンクス)

【事例区分】
  • 企業・自治体等向け製品・サービス等の提供
  • 社会課題解決の取り組み
  • 実証実験等の取り組み

【関連する技術、仕組み、概念】

  • IoT
  • AI
  • DX
  • 4G

【利活用分野】

  • 農林水産業

【利活用の主な目的・効果】

  • 生産性向上、業務改善
  • サービス・業務等の品質向上・高付加価値化、顧客サービス向上
  • 事業継続性向上
  • 海洋環境の維持・再生

事例の背景

 株式会社MizLinx(以下、当社)は、「海の課題を、人と技術の力で解決する」を理念に掲げる海洋テック系スタートアップ企業である。2021年に創業し、東京都荒川区南千住に本社を、東京・お台場に開発拠点を構える。機械工学や情報工学を専門とする技術者たちが集まり、海洋という過酷な環境下で稼働できるIoT機器やロボットの研究開発を行っている。

 創業のきっかけとなったのは、沿岸地域で深刻化するさまざまな環境問題であった。特に「磯焼け」――海藻が消失し、魚のすみかが失われる現象だ。この問題に向き合う中で、野城代表が感じたのは、「そもそも海の中が見えない」という現実だった。現場では、「原因が分からない」「対策の効果を測れない」という声が多く、漁業者や自治体も十分なデータを持っていない。「まずは海の現状を“見えるようにする”ことが、すべての出発点になる」との思いから、当社の挑戦が始まった。

 背景には、気候変動による海水温上昇、沿岸漁業の担い手不足、地域産業の衰退など、複数の社会課題が複雑に絡み合っている。当社は、IoTとAIを活用して海のデータを収集・解析し、地域が自ら課題を発見し解決できる仕組みをつくろうとしている。このためには、厳しい環境で使えるシステムを作る必要がある。「海を技術で開く」という理念のもと、技術開発と同時に漁業者や自治体と密接に連携しながら、地域社会とともに歩む事業を展開している。

 

事例の概要

サービス名等、関連URL、主な導入企業名

 サービス名:MizLinx Monitor(ミズリンクス・モニター)

 関連URL:https://mizlinx.com/

サービスやビジネスモデルの概要

 当社の主力製品は、海洋モニタリング装置「MizLinx Monitor(ミズリンクス・モニター)」である。(図1参照)60センチ四方の筐体にカメラと各種センサーを搭載し、海上に浮かべて設置するだけで水温・塩分濃度・溶存酸素量などのデータを取得できる。カメラ映像をリアルタイムでクラウドへ送信し、陸上から海中の様子を確認できる。宅配便で運べるほどコンパクトながら、海上でも数か月にわたり安定稼働できる堅牢性を誇る。

 このシステムは、2024年度の総務省 地域デジタル基盤活用推進事業において、長崎県五島市で実証された。本実証で開発されたシステムを用いて、再生した藻場の食害状況を監視できるようになった。 (図2参照)その“見える化”が、地域の理解と対策を生む材料となり、課題解決に向けた、データに基づく合意形成を後押ししている。

 さらに、360度カメラとGNSSを組み合わせた「MizLinx Monitor ハンディタイプ」も開発している。潜水せずにウニ(ガンガゼ)などの分布をマッピングでき、駆除や藻場保全の効率化に貢献している。AIによる映像解析を組み合わせることで、魚数カウントや行動パターンの研究開発も進めている。

 

図1:水中IoT技術 海洋観測システム「MizLinx Monitor」(出所:MizLinx提供資料)

図2:MizLinx Monitor による食害監視(出所:MizLinx提供資料)

図3:MizLinx Monitor ハンディタイプでの撮影例(出所:MizLinx提供資料)

 

取り扱うデータの概要とその活用法

 MizLinxのシステムが扱うデータは多岐にわたる。

・映像・画像データ:海中カメラによる生態モニタリング。魚類の行動、海藻の繁茂状況、食害の有無を把握。
・環境データ:海水の温度・塩分・溶存酸素などをセンサーで計測し、藻場環境や赤潮発生の兆候を分析。
・位置情報データ:GNSSを活用し、魚群やウニの分布をマッピング。
・解析データ:AI解析により、魚種判別や行動分析を自動化し、研究や現場管理に応用。

 これらのデータは、研究資料という枠を超え、地域の合意形成を支える「共通言語」として活用されている。同じ映像を見ながら議論することで、漁業者・行政・研究者が共通の理解を持ち、実効性のある取り組みを進めることが可能になった。

 

事例の特徴・工夫点

価値創造

 当社が生み出した最大の価値は、海洋環境を「見えるもの」に変えたことである。海の中の変化を朝昼夜と見た人はいなかった。これまでの経験や勘に頼っていた観測をIoT化し、誰もが映像や環境データという形で海の変化を理解できるようにした。映像という“誰にでも伝わる情報”が、地域の合意形成を加速させ、現場の行動を変えつつある。また、使い勝手にも配慮しているので、持ち運びが容易、揺れている時でも画面が見やすいなどの評価をいただいている。

苦労した点、解決したハードル、導入にかかった期間

 開発初期に直面した最大の壁は、「海上で長期間動かす技術」であった。強い潮流、波、塩害、そして電力供給の問題――。当社は独自の低消費電力回路を設計し、「間欠動作モード」を導入している。必要なときだけセンサーやカメラを起動し、太陽光発電のみで長期間にわたる稼働を実現している。さらに、3Dプリンターを使った筐体試作や、自社での回路実装など、開発工程をすべて内製化している。コストを抑えつつ改良スピードを早めたことが特徴である。

重要成功要因

 成功の鍵は、「地域との共創」にある。MizLinxはすべての実証で、地元漁協や自治体、研究機関などをチームに加えている。単なる製品提供ではなく、「一緒に課題を発見し、一緒に解決する」ことを重視している。現場では、船に乗り込み、漁業者と同じ時間を過ごしながら信頼を築いている。この「人と人との関係づくり」が、最新技術の導入をスムーズにし、地域の自発的な協力を生んでいる。当社は、テクノロジーと地域力の融合がもたらす新しい共創モデルの構築を目指している。

技術開発を必要とした事項または利活用・参考としたもの

 水中カメラをIoT化し、長期観測データとして蓄積する仕組みは国内でも先駆的であり、海洋DXの新たな標準となりつつあると感じている。

 また、低消費電力設計で長期稼働を実現しており、汎用部品を活用し、コストとメンテナンス性の最適化を実現している。自社開発なので、迅速な改良が可能である。今後は、AI映像解析による魚類識別や行動分析の高度化を推進していく。

 

今後の展開

現在抱えている課題、将来的に想定する課題、挑戦

 今後の課題は、費用対効果の追及と地域展開の加速である。現場ごとに海況や課題が異なるため、システムには柔軟なカスタマイズが求められる。当社は地域ごとにパートナー企業や行政と連携し、現地仕様に合わせた導入モデルを提供している。

技術革新や環境整備への期待

 海洋分野では制度面の制約が大きい。機器設置には漁業権や保安規制が関わり、実験許可に時間を要することもある。「もっと自由に試せる“海の実験場”があれば、海洋イノベーションは格段に進む」と考えている。今後は、自律型水中ロボット(AUV:Autonomous Underwater Vehicle)による観測や、衛星通信の活用も視野に入れている。技術革新と制度整備が両輪で進むことで、新たな産業創出の可能性が広がることを期待している。

強化していきたいポイント、将来に向けて考えられる行動

 当社は、地域との共創体制の強化を今後の重点テーマに掲げている。地域にパイプがある企業や自治体、漁業者と連携し、観測機器の運用を地域主体で回す仕組みづくりを進めている。また、観測データをAIで解析し、漁業・養殖業をはじめ、海運・エネルギー・環境保全など幅広い分野での利活用を目指している。“海のデータを地域の財産にする”という理念のもと、地域発の海洋DXを推進していきたい。

将来的に展開を検討したい分野、業種

 将来的には、IoT観測とAI解析を組み合わせたブルーカーボンクレジットの測定支援など、環境経済領域への展開を視野に入れている。海藻が吸収するCO₂量を定量的に把握できれば、環境価値を経済価値へと変換する新たなモデルが生まれる。見えない世界を“見える化”することで、地域の未来を変える――当社としては、海洋DXの新たな地平を切り拓いていきたい。

 

本記事へのお問い合わせ先

株式会社MizLinx(ミズリンクス) 担当:佐々木

e-mail : info@mizlinx.co.jp

TEL : 03-5615-2501

URL :   https://mizlinx.com/